発表日: 2017年04月25日 |
Jacob Perrin、アプリケーションエンジニア、dSPACE Inc.
近年では、先進運転支援システム(ADAS)やアクティブセーフティシステムに対する需要がかつてないほどの高い水準に達しています。自動車関連のさまざまなメーカーが自動運転車両の市場への参入を目指しており、各エンジニアは多くの時間と労力を費やして、多数の利用可能なセンサをリアルタイムで統合しようと取り組んでいます。
センサ融合について調査したエンジニアは、マルチスレッドプログラミング、データサンプルのタイムスタンプと再同期、データレイテンシの計測と評価、システムの最適化とパフォーマンス評価、コードの再利用、ソフトウェアアプリケーションの保守などに関連する課題があることを認識します。そのリストはまさに無限です。
一部の企業では、既存のツールの調整による解決が試みられましたが、社内ツールの開発と保守やリアルタイムのセンサ融合の問題には適しているとは言えません。社内ツールの開発と保守によってこの課題に対処しようとした企業では、そうしたツールの多くが不十分であることが判明しました。
モデルベース設計は、長期間にわたり自動車の組込み開発プロセスの重要な柱となっています。モデルベース設計のアプローチでは、開発効率の向上、製品品質の改善、およびコストの削減が可能であることはよく知られています。
センサ融合の課題に取り組む場合、センサのインターフェースドライバの記述やデータ同期などの労力を排除することにより、エンジニアがコアアルゴリズムの開発に集中できるようなアプローチが必要です。
dSPACEは、パリを拠点とするIntempora社と連携し、その製品であるRTMaps(Real-time Multisensor Applications)を活用することにより、このエンジニアリング上の課題に対する解決策を見出しました。その結果、同社はIntempora社と国際的な販売パートナーの関係を結び、すべてのお客様がdSPACE製品から直接RTMapsを利用できるようにしています。
RTMapsを使用すると、グラフィカルなモジュール型環境により、新しいアルゴリズムやシステムの効率的なプロトタイピングが可能になります。この方法で、エンジニアはさまざまなセンサを使用して多様な設定を行い、さらには各種の処理およびデータ融合戦略を利用することにより、容易に機能をテストおよび評価することができます。RTMapsのデータロギングおよびリアルタイム再生機能を使用すると、エンジニアは実際のデータに基づいて再現可能な方法でオフラインで作業を行い、センサやアルゴリズムの開発やベンチマーク評価を行うことができます。
このツールを採用する米国拠点の企業の数は増大しており、RTMapsの幅広い使用事例が確認されています。最初にADASプールで作業を開始する場合、開発者は主にさまざまなベンダー間の各種センサをインターフェース接続する問題に直面します。これは困難な作業であり、適切なインターフェースを開発してデータを収集および同期化し、以降の処理に利用できるようにするには、数週間から数ヶ月かかる場合があります。
RTMapsでは、センサからデータを収集して記録するタスクはほんの数クリックで行えます。このため、実際には知的財産が生じなければ、ほぼすべての企業において、過去にエンジニアリングリソースを費やしてきたのと同じベーシックデバイスドライバ/SDKインターフェースを再開発する必要はありません。RTMaps環境では、目的のセンサのRTMapsコンポーネントをダイアグラムにドラッグアンドドロップして[Run]をクリックするだけで、データストリームをビジュアル表示、操作、および統合することができます。
RTMaps – リアルタイムマルチセンサアプリケーションに適したモジュール型のマルチスレッドフレームワーク
センサからデータを抽出した後、問題は「それを使用して何をするのか」になります。何らかの方法でデータを消費するソフトウェアコンポーネントは、最初のセンサインターフェースの下流に配置します。アプリケーションに現在ソフトウェアコンポーネントが存在しない場合は、用意されているC++/Python SDKを使用することにより、簡単に作成することができます。また、SDKを使用して、追加のセンサインターフェースのコンポーネントを作成することもできます。多くの場合、センサプロバイダには、センサとのインターフェース接続を実現するライブラリが含まれています。これらのAPIを活用して、数時間から数日でコンポーネントを作成することができます。
dSPACEとIntempora社のパートナーは、要求に応じてお客様向けコンポーネントを作成してきた経験があります。コンポーネントを作成する際は通常、数日中にコンポーネントをRTMapsのローリングアップデートスキームに統合し、すべてのRTMapsユーザがコンポーネントを使用できるようにします。多数のプリアルゴリズムコンポーネントが含まれているため、これらを独自のアプリケーション用に活用することができます。たとえば、豊富なプロセッシングコンポーネントに加えて、多数のOpenCV関数がコンポーネントパッケージとしてデフォルトで含まれています。
当社のRTMapsを使用するお客様の多くは、単純に現場へ行き、データを記録してから、ラボでそのデータを使用して、アルゴリズムの改良やセンサのパフォーマンス評価を行うことができます。RTMapsの最も優れた機能の1つは、標準化された形式でデータを収集し、データストリームがセンサから直接入って来ているかのように、そのデータを同期的に再生できる機能です。ビデオファイルは、生の画像(AVI、MPG、バイナリなど)として保存することができます。センサインターフェースは、.mファイルに直接保存して、MATLAB®環境で使用することができます。お客様は独自の記録形式を選択することもできます。これらのユーザにとっては、はるかに容易なタスクになりました。
また、RTMapsは分散方式で動作するオプションも提供しており、さまざまなプラットフォームからデータを収集することができます。再生の場合は、プレーヤーコンポーネントが単純に.recファイルを指し示し、このファイルによってこれらの独立した各データソースからタイムスタンプを収集し、同期的にデータを再生します。タイムスタンプは、システムクロックを利用するか、GPSから入力されるUTC時間などのデバイスクロックを使用して、作成することができます。
システムクロックに関しては、RTMapsをサポートするオペレーティングシステムについて言及する必要があります。RTMapsはミドルウェアであるため、基本システムと同程度の機能(プロセッサ、ハードウェアアクセラレータ、オペレーティングシステムの最適化など)のみを実行します。
最適なパフォーマンスを実現するため、RTMapsではコピーなしのイベントベースのマルチスレッドプロセッシングメカニズムを採用しています。現在サポートされているシステムアーキテクチャは、WindowsとLinuxの両方のx64/x86版です。ただし、Intempora社はRTMaps Embeddedと呼ばれるRTMapsの新バージョンを近く公開する予定です。このバージョンでは、組込みクロス開発のような方法でARMプロセッサを対象とするよう、RTMapsエンジンが拡張されます。これにより、Intempora社はQNXやGreen Hillsなどの製造業向けのオペレーティングシステムでターゲットをサポートできるようにしています。
Intempora社が新しいソフトウェアの公開準備を進める一方で、dSPACEはターゲットの組込みプラットフォームとなるべく最適化した新しいハードウェアプラットフォームを公開する予定です。この新たなプラットフォームは、GigE、GMSL、CAN/CAN FD、LIN、GNSS/IMU、USB、HDMI、WLAN、LTE、Bluetoothなどのインターフェースを搭載しています。これらはすべて、6コアARM CPUおよび最新のNVIDIA GPUと組み合わせて使用されています。MicroAutoBox Embedded SPU(Sensor Processing Unit)として知られるこのプラットフォームは、お客様待望の堅牢な車載ソリューションです。これをMicroAutoBox IIを使用したスタックに組み込むと、連携した2つのプラットフォームを通じて、お客様は自動ソリューションの認識部分と制御部分の両方のプロトタイピングを実施できます。
RTMapsはdSPACEツールチェーンにとっての刺激的な追加ソフトウェアであり、その普及は確実に進んでいます。お客様と協力して自動システムソリューションを構築することは本当に素晴らしい作業でしたし、お客様は皆その結果に満足しています。特にあるお客様は、米国を拠点とした2人のチームを12人の外国人エンジニアチームと競争させることにより、RTMapsをテストしました。その際、両チームは幅広いセンサとのインターフェース接続を行い、車両の認知ソリューションを構築できるように取り組みました。RTMapsを使用する米国拠点のチームは、数週間内にすべてのセンサを接続し、共通の座標フレームにセンサを配置することができました。もう1つのチームは、数ヶ月後も依然としてわずか1個のセンサに対する予備インターフェースのハンドコードに取り組んでいました。この時までに、当社のお客様はプロジェクトをほぼ完了し、RTMapsソリューションは勝者となりました。
RTMapsは強力なツールであり、今後自動運転車両の開発レースが進む中で、このツールがどのように適用されていくのかを見るのは楽しみです。
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