シャシの新しい制御方式を開発およびテストする場合は、ブレーキシステムやステアリングシステムなど、多数のコンポーネントを考慮する必要があります。これらのシステムにはさまざまな電気および電子コンポーネントが内蔵され、ドライバーが運転状況に直接アクセスできるようにするため、シャシ制御は車両安全システムの中でも重要な役割を担っています。同社は、dSPACEのステアリングテストベンチおよびブレーキシステムテストベンチを使用してシャシ制御機能の開発環境を構築し、それを活用して総合的なテストを実施することで、あらゆるシャシ制御機能の確実な動作を保証できるようにしました。
テストにおける課題
Brilliance社では、開発プロセスを複数の段階に分割しています。各段階では社外のサプライヤによって特定のハードウェアおよびソフトウェアコンポーネントが提供されます。また、車両安定制御プログラム(ESP)や電動パワーステアリング(EPS)システムについても異なる2つの社外ソースからの供給を受けています。これはつまり、システムの不整合をすべて排除するためには、同社のエンジニアはコンポーネントテストと統合テストの両方を実施する必要があったということです。たとえば、車線変更、スラローム、トラクションコントロールシステム(TCS)、ビークルダイナミクス制御(VDC)、アンチロックブレーキシステム(ABS)、ヒルホールドコントロール(HHC)には、それぞれ個別のテストを実施していました。
dSPACEシステムにより多岐にわたるテストを管理
上記の課題に取り組む中で、同社はdSPACEシステムを採用し時間の節約とテスト時のコスト削減を図ることにしました。また、テストを開発の早期の段階にフロントローディングすることにより、できる限り早くエラーを検出し、製品の技術的完成度の向上につなげたいとも考えていました。さらに、ブラックボックステスト(Brilliance社への納入時点でテストを実施すること)により、サプライヤから提供されたコントローラを容易に検証できるようにしたいとも望んでいました。これを実現すれば、同社がまず各種のインターフェースを作成してから、そのうえでそれらを介してコントローラの内部動作にアクセスするという手間が省けるからです。

Launched in June 2018, the Brilliance V7 SUV was the first vehicle that Brilliance developed using the dSPACE test bench. More models are already in development.
テストベンチの構成
Brilliance社では、dSPACE SCALEXIOシミュレータを使用して必要なプロセッサ電力や入出力インターフェース、シグナルコンディショニング機能を供給することで、テストベンチのモーター制御を行いました。また、計測データの記録もすべてシミュレータで実行しました。さらに、パラメータの設定、モニタリング、グラフィカル表示といったテストベンチ全体の制御には試験および計測用ソフトウェアであるdSPACE ControlDeskを用いることにしました。同社は、夜間テストの場合にもすべてのシーケンスを自動化できるよう、dSPACEのテストオートメーションソフトウェアであるdSPACE AutomationDeskを使用しました。ビークルダイナミクスのリアルタイムシミュレーションにはdSPACE Automotive Simulation Models(ASM)ツールスイートを採用しました。車両モデルのパラメータ化には、dSPACE ModelDeskのGUIを使用しました。Brilliance社のエンジニアたちは、この開発環境を役立て、試験用の数十の運転操作と道路コースを作成しました。その際、すべてのテストドライブを表示して運転操作をすばやく評価および変更することが可能な3DアニメーションソフトウェアであるdSPACE MotionDeskを使用しました。

For the development of chassis control functionalities, the dSPACE setup enables comprehensive, accurately reproducible, automated tests of a wide range of driving scenarios
重大な運転状況のテスト
dSPACEシステムの大きな強みは、実際の路上テストと同等の、明確に定義されかつ再現可能な条件を使用してラボでテストを実行できることです。これを活用すると、路上テストで再現するのは危険または不可能である、非常に特殊かつ重大な運転状況の大半を正確に解析することが可能です。また、エンジニアがテストベンチに特定のエラーを意図的に挿入してコンポーネントの技術的欠陥をシミュレートし、システムの応答を解析および最適化することもできます。これにより、同社は、プロトタイプ車両を使用して最初のテストドライブを実施する前の段階で、極めて高いレベルのテストカバレッジを達成することができました。このように、幅広い可能性を持つテストベンチを活用すれば、テストをはるかに容易かつ効率的に実行することが可能です。
速やかな習得が可能
dSPACEシステムを使用すると、時間を節約しながらもテストに関連する多数のタスクを容易に実行することができますが、このシステムのもう1つの卓越した特長は短期間で習得できることです。Brilliance社においては、エンジニアたちがdSPACEシステムの操作についてサポートを必要としたのは最初のわずかな期間のみであり、ほんの数週間後には彼らはそれを自ら駆使して極めて生産的に各プロジェクトの作業を行うことができました。
さらなるプロジェクトを計画中
Brilliance社では、dSPACEステアリングテストベンチと各種のdSPACEソフトウェアツールを基に構築されたシャシ制御開発環境を長期にわたって使用しています。これは、Brilliance V7 SUV(図1)のテストや2018年6月の同SUVの市場投入時にも非常に役立ちました。こうした優れた成果を受け、同社は他のプロジェクトでもdSPACEの開発環境を既に利用しており、さまざまな機能拡張も計画しています。
Brilliance社について
Brilliance China Automotive Holdings社はミニバスや自動車用コンポーネントの製造と販売、およびBMW車の製造と販売という2つの事業を中心に活動する投資持株会社です。同社の中国における最重要事業子会社はShenyang Brilliance Jinbei Automobile社であり、同社の売上の約90%を占めています。また、同社はミニバスおよびリムジンの組み立てや改造に加え、子会社を通じた金融サービスの提供にも取り組んでいます。