発表日: 2017年07月07日 |
Torsten Kluge、エンジニアリンググループマネージャー、dSPACE GmbH
自動運転のプロトタイプ車両をテストする場合、無数とも思えるほどの数の想定可能なトラフィックシナリオと要件に対応することを考慮すると、必要な走行距離は数億マイルにもなります。そのようなレベルのテストを遂行しようとするのは非現実的です。ただし、より良い解決策があります。
アルゴリズムとモデルを駆使した仮想テストドライブを通じて想像できるあらゆる運転シナリオを再現することで、先進運転支援システム(ADAS)や高度な自動運転アプリケーションの妥当性を確認することができます。ADASや高度な自動運転アプリケーションの機能の妥当性を確認する場合に、実際のテストドライブではなく仮想的な走行テストを実施して、有益なテスト結果およびデータを取得します。
dSPACEは、仮想テストドライブを実現する完全なソリューションを提供しています。
dSPACE Automotive Simulation Model(ASM)ツールスイートを使用することにより、無制限のオブジェクト数を検出可能な複雑な仮想シナリオを作成することができます。道路、交差点、建物、道路標識、建設区域、交通車両、歩行者、および天候や路面などの条件のような環境の要素はすべて仮想的に再現され、総合的かつ極めて現実的なテスト環境を提供します。
仮想的なテスト環境を構築するプロセスの起点はモデリングです。dSPACE ASMモデルはオープンなSimulink®モデルであり、これを使用して、個々の車両コンポーネントおよびシステムから道路網、トラフィックオブジェクト、トラフィックセンサ、および完全な仮想トラフィックシナリオに至るすべての事例をシミュレートします。
これらのモデルはMIL(Model-in-the-Loop)、SIL(Software-in-the-Loop)、およびHIL(Hardware-in-the-Loop)プラットフォームに使用できます。
dSPACE GmbHエンジニアリング部門のグループマネージャーであるTorsten Klugeは、「ASMモデルは、モデルベース開発プロセス全体、クラスタシミュレーション、およびリアルタイムシミュレーションのための最も柔軟で使いやすいモデルであり、完全かつオープンなだけでなくカスタマイズすることも可能です」と述べています。
dSPACE ASMツールスイートは、シミュレーションワークベンチの一部として使用することで、モデルベース開発プロセスにおける機能設計およびコントローラテスト向けの現実的なモデルを提供することができます。
dSPACEはADASアプリケーション向けに、車両、トラフィックオブジェクト、道路網、およびセンサをシミュレートするための一連のASMモデルを提供しています。
MotionDeskは現実的な3Dアニメーションとしてモデルを再作成します。
道路の記述は非常に複雑になる可能性があります。道路の記述が実際のデータに基づいていることは、テストの実施要件を満たすために極めて重要です。dSPACEツールチェーンでは、ModelDeskのRoad GeneratorをASMモデルと組み合わせて使用することにより、人工的な道路や仮想道路(道路網、トラフィックオブジェクトなど)を作成できます。
これらのツールを使用すると、車線、車線幅、高さや面の定義、曲率、勾配、路面、ガードレール、車線検出ラインなどを極めて詳細に定義できるため、走行車線逸脱システムや車線維持システムなどの運転支援システムをテストすることができます。
道路網を作成する際に実際のデータを組み込むには、Google Earth、OpenStreetMap、全地球的航法衛星システム(GNSS)などのソースの経路データ座標測定値からデータをインポートおよびエクスポートすることができます。
ModelDeskで道路網を構築すると、直ちにMotionDeskと同期され、シミュレート対象の道路をさらに現実的かつ正確に3Dビジュアル表示することができます。
道路モデルを作成したら、次のステップでは、テスト車両と路上に存在するその他の車両(移動中および駐車中)の定義、すなわち他の車両やオブジェクト周辺における運転操作の経路および方法を定義します。運転操作は、設定した条件やトリガイベント(交差点への進入や車線の変更など)に応じて、単純なものから非常に複雑なものまで多岐にわたります。
また、運転操作には、時間や距離に応じて定義された加速度、速度、ステアリング、ペダル操作などのデータが含まれる場合もあります。
考えられる最も現実的なトラフィックシナリオを用意するには、車両とともにトラフィックオブジェクトやセンサを仮想テスト環境の要素に取り入れる必要があります。
ModelDeskのTraffic Editorを使用すると、歩行者、建物、道路標識、信号機、交差点、樹木などの検出可能かつ動的なオブジェクトをインポートすることができます。オブジェクトの動作特性(すなわち、位置、速度、車線選択など)を含む個々のオブジェクト特性の詳細を定義して、テスト用にモデルを向上させることができます。
Kluge氏は「交通車両とトラフィックオブジェクトの定義は複雑で時間がかかる場合があります」と述べます。「そのため、さらには容易な再利用も目指し、OEMメーカーやサプライヤと協力してOpenScenarioフォーマットを定義しています。当社は間もなくdSPACE ASMおよびModelDeskでこのフォーマットをサポートする予定です。
テスト対象車両には、トラフィックオブジェクトに加えて、センサモデルを組み込む必要があります。
テスト用のシミュレーション環境には、ADASアプリケーションおよび自動運転に一般的なあらゆる種類のセンサ(車線検出センサ、カメラ、レーダーセンサなど)のモデルを取り込み、センサモデルをパラメータ化することができます。たとえば、一定範囲内において他のあらかじめ設定されたオブジェクト(交通車両や道路標識など)の検出度合いをテストすることができます。
センサモデルは直接メインプロセッサで、あるいはグラフィックスカード上で実行することができます。グラフィックスカード上でのシミュレーションでは、物理的効果を含め、カメラ、レーダー、およびレーザーセンサの極めて詳細なシミュレーションが可能です。メインプロセッサ上のセンサモデルは、シミュレーショングラウンドからの情報を正確に提供し、外乱などによる影響が一切ないため、グランドトゥルースセンサと呼ばれています。
dSPACEのグランドトゥルースセンサモデルでは幾何学的なアプローチを採用しており、レーダー、ライダー、カメラなどのセンサをサポートしています。サポートするセンサには、道路標識センサ、2Dセンサ、3Dセンサ、および将来的なセンサ用としてカスタマイズ可能なセンサモデルなどがあります。
仮想テスト環境内のトラフィックフローを現実的にシミュレートするために、車両の動き、走行車線および車線変更、交差点、対向および横断トラフィックなどを定義することにより、(単純および複雑なシナリオの)交通状況を作成します。これらの特性は、速度、加速度、他の車両との距離、道路の中心との距離、他の車両との相対距離などの詳細データを入力することによって設定されます。
モデルは、Simulation of Urban Mobility(SUMO – オープンソース製品)やPTV Vissim®などのサードパーティ製トラフィックフローシミュレーションプログラムに接続して、任意の数の車両のトラフィックフローを現実的にシミュレートすることができます。これらのソースからのトラフィックフロー情報は、ASMを使用したADAS機能のテストに利用可能です。
また、実際の事故のデータをインポートして、ASMでシーンを再現することができます。このデータでテストを実行して、緊急コントローラを使用した場合に事故をどのように回避できたかを明らかにすることができます。
たとえば、German In-Depth Accident Study(GIDAS:ドイツ事故詳細調査)データベースでは事故が詳細に記録されるため、シミュレーションプログラムでこうした事故を再構築することができます。制動減速度、始動速度、衝突速度、角度変化などの変数は、すべてエンコードしたパラメータに含まれています。
仮想テスト環境(車両、車両の運転操作、静止オブジェクトやムービングオブジェクト、センサ、環境、トラフィックシナリオなど)のモデリングを完了したら、シミュレート対象の環境で機能テストを開始し、システムの挙動を確認することができます。
dSPACEでは、クラスタシミュレーションを提供することで、必要となる何千ものテストの実行をサポートしています。ASMツールスイートで作成したモデルをdSPACEのシミュレーションプラットフォームVEOSと組み合わせて使用すると、実際の道路上ではなくPC上で直接ソフトウェアの自動テスト(仮想テストドライブ)を実行することができます。
VEOSによるPCベースのシミュレーションを用いることにより、リアルタイム以上に高速にテストを実行できます。これにより、テストドライブで毎日数百万マイルを走破可能になります。また、テストドライブが失敗した場合でも、それを再現して詳細にデバッグすることができます。高度な自動運転機能のHILテストや実車によるテストドライブを開始する際には、あらかじめ複数の開発段階で広範なテストを実行することができます。トラフィックシナリオは、修正してすぐにシミュレートできるため、コードを再生成せずに、より多くのテストを実行できます。
シミュレート対象のテスト環境で利用可能なオプションをすべて使用すれば、実際の道路で何億マイルも走行して自動運転車両のテストを行う必要はありません。その代わりに、数千の仮想テストドライブをデスクトップまたは安全なラボで実行することができます。
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