はじめに

先進運転支援システム(ADAS)/自動運転システムの開発では、早期の検証が重要です。モデルベース開発(MBD)は、MATLAB/Simulinkを用いて開発成果物や環境をグラフィカルに記述し、開発期間短縮と品質確保に役立ちます。特にレーダーセンサを含むMBDの検証系では、シミュレーションの使い分けが課題です。レーダーの電磁波はマクスウェル方程式で支配され、リアルタイムシミュレーションが困難です。反射や干渉などの効果も考慮する必要があります。

従来のSIL(Software-in-the-Loop)/HIL(Hardware-in-the-Loop)シミュレーションに加え、実物のレーダーを用いたOTA(Over-the-Air)テストや、車両全体を含むVIL(Vehicle-in-the-Loop)シミュレーションが提案されています。しかし、どのテスト手法をどの状況で使うべきかの検討は多くありません。本稿では、ADAS/自動運転システムの妥当性確認におけるシミュレーションの使い分け、特にOTAおよびVILテストの有効性について検討します。

ADAS・自動運転のための周辺認知センサ

近年、多くの車両にADASが搭載されています。ADASは認知、判断、操作の3つの機能で構成され、カメラやレーダーなどのセンサを用いて周辺環境を認識します。たとえば、自動車線維持(ALKS)や定速走行・車間距離制御(ACC)機能は、カメラとレーダーで実現されます。

自動運転レベル1および2の車両には、フロントカメラ、フロントレーダー、コーナーレーダー、超音波センサなどが搭載され、レベル3以上ではさらに多くのセンサが使用されます。特にミリ波レーダーは、対象物の位置や速度を検知する重要なデバイスです。

自動車分野では、24GHz帯と77GHz帯のミリ波レーダーが広く使用されています。システムの複雑化に伴い、早期の妥当性確認が開発期間の短縮と品質確保に重要です。カメラ、LiDAR、レーダーセンサの妥当性確認が開発の大きな課題となります。

シミュレーションによる検証では、レーダーECUに注入する信号の種類により、検証内容が異なります。各フェーズの技術要件を確認しながら、効率的な検証方法を検討することが重要です。

図1:ADASから自動運転への進化に伴う搭載センサの増加

SIL/HILシミュレーション

MBDを用いた車載ECUの検証手法として、SILおよびHILシミュレーションの概要と特徴について述べます。

SILシミュレーション:
  • コントローラとプラントの両方がシミュレータ上で再現される
  • 実時間の制約がなく、リアルタイムよりも早く動作可能
  • 精巧なモデルを用いて緻密なシミュレーションが可能
  • 特別なハードウェアが不要で、一般的なPCやクラウド上で実行可能
  • リアルタイム性が保証されないため、実際のECUとの接続には不都合が生じる可能性がある
HILシミュレーション:
  • 実ECU(コントローラ)とHILシミュレータで動作するプラントモデルを接続
  • 実車に搭載されているかのような環境を再現
  • 実車検証のコストや条件設定の難しさを解消
  • リアルタイムでの計算が必要で、専用ハードウェアが用意される
  • ゲーム用描画エンジンやGPUを活用し、カメラ映像やレーダー反射波を再現

これらのシミュレーション手法を用いることで、車載ECUの検証を効率的に行うことができます。
 

OTA/VILシミュレーション

レーダーなどの外界検知センサを含む妥当性検証系では、従来のSIL/HILシミュレーションに加え、OTAシミュレーションやVILシミュレーションが実用されています。

OTAシミュレーション:
  • カメラやレーダーなどのセンサを現実に近い条件でテスト
  • 実際の物理信号をセンサECUに入力し、直接スティミュレート
  • フロントエンドから出力信号まで全ての処理ステージをテスト可能
  • DUT(テスト対象デバイス)をアプリケーション内で使用する場合と同様に使用でき、デバイスの変更不要
  • ガラスやバンパーなどの影響も含めてテスト可能
  • リアルタイム性が求められ、複数センサの情報をフュージョンする必要がある場合にも対応
VILシミュレーション:
  • OTAシミュレーションより現実に近い環境で統合的なテストが可能
  • 市販車両のセンサにOTAでシミュレーションを行い、台上でADAS機能を実現
  • テストコースや先行車両の準備不要で、危険なシナリオも安全にテスト可能
  • 自動車生産ラインでの検査やセンサ交換後のADAS機能テストにも適用可能
  • ドイツや韓国にて、定期点検整備(日本での車検に相当)時のADAS機能テストに利用するために実証実験が進行中

これらのシミュレーション手法により、ADASや自動運転システムの妥当性確認が効率的に行えます。
 

図2:VILシミュレーションセットアップの例

シミュレーション方式の比較検討

SIL、HIL、OTA、VILの各シミュレーション手法を比較し、レーダーセンサを用いたシステムの妥当性確認に適したシーンを検討します。

比較項目:
  1. シミュレーションの現実との近さ
  2. 他のテスト方式との統合のしやすさ
  3. テスト条件の再現性
  4. 拡張性
  5. テストシステムのセットアップ時間
  6. シミュレーションされる自動車の1日あたりの走行距離
  7. シミュレーションのリアルタイム性
  8. テストに使用されるシステム・デバイスが実物か仮想的なものか
  9. 自動車の周辺の物標がシミュレーションか実物か
  10. センサ信号の生成方法
表1:シミュレーション方式による比較
適用シーン:
  • SILシミュレーション:開発初期段階で、実センサが未完成の状態で使用。センサモデルを用いて早期にシステム検証を開始し、センサ要件の洗い出しにも活用。
  • HILシミュレーション:実センサを用いたアルゴリズムの妥当性確認に有効。センサの各段階での信号生成と注入を行い、リアルタイムに複雑な信号をシミュレート。

たとえば、フロントエンド直後のセンサ生データの生成には、反射波やノイズなどをリアルタイムにシミュレートするため、GPUを用いた高速演算が必要です。HILシミュレータを使用して、各段階に応じた電気信号やデータの注入を行います。

これにより、各シミュレーション手法の特徴を活かし、効率的にレーダーセンサを用いたシステムの妥当性確認が可能となります。

結論

本稿では、ADAS・自動運転における認知・制御アルゴリズムの開発において、特にレーダーセンサについてSIL/HIL/OTA/VILシミュレーションの各手法を比較し、それぞれの特長と適用シーンを論じました。

SILシミュレーション:
  • 開発初期段階で有効。実センサが未完成の状態でも、センサモデルを用いて早期にシステム検証を開始可能
  • センサ要件の洗い出しにも活用
HILシミュレーション:
  • 実センサを用いたアルゴリズムの妥当性確認に有効
  • センサの各段階での信号生成と注入を行い、リアルタイムに複雑な信号をシミュレート
OTAシミュレーション:
  • 実センサを用いて、現実に近い条件でテスト
  • バンパーなど、周辺素材の物性の影響を含めたテストも可能
VILシミュレーション:
  • 実車にレーダーセンサが搭載された後、または実車が上市された後に有効
  • 車体の影響も含めた検証が可能

これらのシミュレーション手法を適切に活用することで、開発期間の短縮と品質向上が期待されます。ただし、シミュレーションによる妥当性確認は100%ではなく、現実世界の複雑さを完全に再現することは困難です。今後の研究課題として、各シミュレーション手法の定量的な比較や、高機能化するセンサに対応した技術開発が挙げられます。

自動車技術会(JSAE)論文ページ

文献著者

花岡 弘樹

花岡 弘樹

dSPACE Japan株式会社 技術営業部 Business Developmentグループ

山田 崇

山田 崇

dSPACE Japan株式会社 技術営業部 Business Developmentグループ

Andreas Himmler

Andreas Himmler

Senior Product Manager Real-Time Test & Development Solutions dSPACE GmbH

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