2019年7月、dSPACEはunderstand.ai(UAI)社を買収しました。このスタートアップ企業は人工知能(AI)技術の先駆者で、データ解析の自動化、データアノテーション、および自動運転のためのシミュレーションシナリオ抽出に主眼を置いている企業です。これらの重要なテクノロジがdSPACEのポートフォリオに戦略的に追加され、現在では自動運転のための独自の統合開発およびテストソリューションを提供しています。インタビューでは、UAIの設立者であるMarc Mengler氏とPhilip Kessler氏が、dSPACEとの提携による付加価値について説明し、顧客のプロジェクトがおおむねどのように機能するかについて解説します。
AIは医療業界などの多数の分野で利用されています。UAIが自動車業界に注力しているのはなぜでしょうか。
Marc Mengler氏:当初、私たちは厳密に交通分野だけに照準を絞っていたわけではありません。活動初期には、私たちはドイツのがん研究所と協働して、医療用AI のトレーニングおよびテスト向けの大規模なデータセットの共同開発なども行っていました。しかし、医療における課題は、私たちの身体はあまり標準化されていないということでした。細胞、疾患、腫瘍などはほとんど規則に従いません。
大都市におけるラッシュアワー時の交通状況を見ると、秩序や規則があるとは思えませんが…。
Philip Kessler氏:交通状況には顕著に複雑なものもありますが、一般的に交通というものは標準化された規則に従っています。そして、車などの最も一般的なトラフィックオブジェクトは、外観やサイズがよく似ており、一度AIアルゴリズムをトレーニングし最適化してしまえば、それらは最も一般的なオブジェクトクラスとして世界中で使用することができるのです。スケーラブルでより精度の高い製品を作るうえで、標準化された規則は決定的な要素となります。AIアルゴリズムのトレーニング用データとテスト用データを作成する当社の最初の製品にとって、精度は非常に重要です。そのため、自動車業界という一つの業界に集中する必要がありました。自動車業界に特化した理由はもう一つあります。understand.ai社にいる私たちは、自動運転を実現できるか否かで自分たちの世代が評価されると考えています。そこで、当社がその成功への鍵になってみせると決心したのです。
understand.ai社について
understand.ai社は、自動運転アルゴリズムの効率的なトレーニングやテストに応用するためのトレーニングデータや検証データの分野に特化した専門知識を有する企業です。同社はたとえば、計測走行時に記録されたセンサデータの処理をするのに自己学習アルゴリズムを活用し、これらをシミュレーション用に整備します。基盤となる重要なテクノロジは人工知能ベースで開発されているため、データの評価を高精度かつ効率性に優れた形で確実に行うことができます。これらを通じて、同社はお客様が使用する運転アルゴリズムに高度な正確性をもたらしています。understand.ai社は2017年に設立され、55名の従業員を擁しています。同社の本部はカールスルーエにあります。詳細については、 UAI をご参照ください。
自動車業界では、データドリブン開発プロセスという言葉がよく使用されています。この点におけるUAIの役割は何でしょうか。
Philip Kessler氏:有言実行を果たすことです。私たちの製品ポートフォリオは適正な計測データを特定し、それを適切な品質レベルに高める、つまり計測データをアノテーションして、その結果をシミュレーション環境に抽出することが基礎を成しています。シミュレーションにおいては、たとえば駐車している車両を追い越すなどの事例がありますが、実録された現実世界でのシナリオから関連するテストシナリオを拡張生成していきます。このことが重要なシナリオを適切な分量だけシミュレートできるようにしているのです。それゆえにUAIの製品は、自動運転車両のデータドリブン開発や妥当性確認の中で大きな役割を担っています。
UAIの製品ポートフォリオはdSPACEの製品ファミリの中に、どのように融合していきそうですか。
Marc Mengler氏:我々はお互いを完璧に補完し合います。UAIのポートフォリオは、データ選択、匿名化、アノテーション、およびシナリオ生成に対応しており、dSPACEのデータロギングやデータリプレイおよびシミュレーションなどの各用途の製品にシームレスに統合することができます。両社の製品ポートフォリオの組み合わせなら、ひとつの総合的ツールチェーンでデータドリブンプロセスを計画することが可能です。dSPACEとUAIが共通して持っていた自動運転のデータドリブンおよびシナリオドリブン開発と妥当性確認に関するビジョンが、dSPACEとの提携における決定的要因でした。
代表的なUAIのお客様のプロジェクトについてご説明ください。
Marc Mengler氏:当社のお客様のプロジェクトはすべて、生データ、つまり計測データに基づいています。お客様が何台かの車載カメラ、LiDAR、レーダーセンサで記録を取り、それをAPI経由で当社に提供するのです。ただし、生データはAIアルゴリズムのトレーニングやテストの極めて限られた範囲でしか使用できません。また、オブジェクトの周囲にボックスで境界をつける、あるいは関連するオブジェクトに各ピクセルを割り当てる(セマンティックセグメンテーション)など、処理を施さなければ十分に活用できません。この作業は実際より簡単に聞こえますが、最終的に98%の精度を達成する必要があり、さまざまな難題が細部に潜んでいます。たとえば、2次元カメラ画像の中で車両の周囲に2次元の長方形のボックスを配置する方法は多数存在します。
また、お客様が常に車両の寸法を同一の方法で定義するとは限りませんよね。
Philip Kessler氏:その通りです。サイドミラー、車載アンテナ、ルーフフラックなどを持つボックスを求めるお客様もいますし、求めない方もいます。また別のお客様では車両の見えない部分、つまりカメラ画像では必ずしも視認できかねる部分をも含める外挿ボックスを所望されることもあります。しばしば、50以上のオブジェクトクラスそれぞれで適切な仕様を見つけることも必要です。そこでUAIはお客様と極めて緊密に連携し、特に初期の段階で、適切な仕様を見つけ出せるようサポートしています。その後、データセットの重要なサブセットを使用してこれらを実証します。この目的のために、我々は高度に自動化されたプロセスと高度なアルゴリズムを使用しています。さらに人による妥当性確認を組み合わせて、ほぼ1ピクセルも狂いのないセンサデータの処理を可能にしてくれるのです。当社では、このサブセットをテストしてお客様の承認を受けた時点で、それぞれの仕様に合わせてアルゴリズム、ツール、およびプロセスを最適化します。これにより、決められた仕様内でボリュームを十分に拡大できるようになります。ただし、自動運転は仕様が刻々と変化する極めてダイナミックな分野です。頻繫に顧客プロジェクトの仕様は変わり、車載センサの交換や設置箇所の変更も起こります。dSPACEとの緊密な協力のおかげで、我々はより素早く、よりお客様本位に対応することができるようになりました。
UAIの製品ポートフォリオと競合他社製品との違いは何ですか。
Marc Mengler氏:主な違いは、UAIの製品は高度な自動化と高い品質を目指しており、いずれをも達成しているということです。そのため、お客様が当社の製品で自動化を進めれば進めるほど、自動化に必要な人数は少なくなり、達成できる一貫性は高くなります。ふつうはこのようにはなりません。1つの課題に取り組む人数が多いほど、より多くの意見の不一致が生まれます。また、当社がdSPACEと協力できることも大きな違いを生んでいます。現地の言葉に通じたdSPACEのグローバルな営業チームとの連携により、特殊な顧客要件やプロジェクト仕様の変更に対応することができます。この効果は、dSPACEとunderstand.ai社のツールやバリューチェーン全体で発揮されています。
品質の定義はどのように行っているのですか。
Philip Kessler氏:アノテーションや抽出したシナリオの品質は、4つの基準で決定されます。精度、正確性、カバレッジ、および一貫性です。UAIでは、それぞれの品質基準に対し、契約書にて達成すべき計測値を定めています。私たちの目標は、常にお客様の期待を超えることです。可能な限り最高品質のトレーニングおよびテストデータを提供することが創業時からの目標の1つでしたし、今も私たちの使命であり続けています。個々のデータのエラーがアルゴリズムのエラーにつながっているのですから。
dSPACEとの提携は、海外のお客様との関係にどのような影響を与えていますか。
Marc Mengler氏:私たちは、dSPACEと協力することで、トレーニングと同様に、世界中でより良い顧客サービスやコンサルティングサービスを提供できるようになりました。また、OEM各社は、自動運転機能の開発およびテスト向けの独自かつ統合型のソリューションを単一のソースから得られるようになりました。
現在はどのような分野の技術革新に取り組んでいますか。
Philip Kessler氏:当社のお客様方は常に共通するの法則を3つ、お持ちです。適切な品質、適切な量、適切なデータです。品質については、私たちは既にアノテーションやシナリオ生成ソリューションによって対応しています。またデータ量については、2020年の初めに新たなソリューションを発表する予定です。Scenario Libraryという継続的に成長してゆくライブラリです。そして残る側面は「適切な」データということになります。2020年の中頃には、この点に対応する製品を発表しようと考えています。ペタバイトクラスの量のデータの中からアノテーションやシナリオ生成のための適切なデータを選択するのを支援するものです。
UAIのサービスを利用したり、製品を購入したいと考えるお客様向けの連絡先を教えてください。
Marc Mengler氏:お客様の窓口は、世界中のdSPACE営業担当者や主要アカウントマネージャが務めます。彼らはUAIの製品に関するトレーニングをしっかりと受けています。より専門的な知識が必要な場合は、UAIの専門スタッフがいつでもサポートいたします。