自動運転車両の認知部では、車両を取り巻くすべての環境を完全に検出できなければなりません。そのため、自動運転向けの各種機能は、人工知能および機械学習に基づいたアノテーションによって自動的に生成されるグラウンドトゥルースデータと比較することで検証されます。dSPACEのグループ企業であるunderstand.ai社では、アノテーションの品質、実行速度、およびコストを最適化することを目指しています。
私はこれまで、自動車業界においてCASE(Connected、Automated、Shared、Electrified)を中心としたEEおよびIT分野を経験し、スタートアップ企業と大企業の両方で技術および営業部門の管理職を務めてきました。私は、自動車業界での新しい革新的技術の開発に大きなやりがいを感じています。当社は、技術革新をリードする企業として、人工知能や機械学習の分野での卓越した競争力と製品を自動物流分野に提供していきたいと考えています。また、当社は今やスタートアップの段階ではなくスケールアップの段階にあり、非常に意欲的かつ有能なチームを有しています。私たちは、強力なパートナーであるdSPACEと協力しつつ、成長をさらに拡大させていきます。なお、両社は独立して事業を行っていますが、たとえば、シミュレーションシナリオの生成などに関してはunderstand.ai製品はdSPACEのデータドリブン開発ポートフォリオに極めて適しているため、そのような場合には合理的に連携しています。
自動運転を私たちが実際に体験できるのはいつ頃でしょうか。また、自動運転車メーカーとしては、その実現に向けてどのような課題を抱えておられますか。
まず、乗用車とB2Bの商用車を区別して考える必要があります。乗用車の分野では、主にADAS/L2の機能とAD/L3環境の初期アプリケーションが実用されるようになってきています。しかし、テクノロジだけでなく、コスト、認定条件、そして責任の所在がドライバーからメーカーへと移行しつつある点など、解決すべき問題は存在します。そのため、乗用車でのレベル4またはレベル5の自動運転の実現にはまだしばらく時間がかかるというのが私の見解です。ただし、商用車部門の状況は異なります。なぜなら、動作設計ドメイン(ODD)をより明確に定義できることから、認定や責任のリスクを限定できますし、事業用途の場合はドライバーの無人化によりADテクノロジのコストを相殺し、商業的なメリットを求めることができるためです。実際、商用車では既に最初のL4車両の実用化が確認されています。
自動運転システムの効率的な開発において、最も重要な要素は何でしょうか。
自動運転を実現するうえでの一般的な前提条件は、データ、アルゴリズム、プロセス、およびテクノロジの品質だけでなく、開発プロセスにおける自動化のスピードとレベルを向上させることです。その際、信頼性に優れたツールチェーンを活用すれば、高度な柔軟性、品質、自動化を容易に確立することができます。自動運転では、処理するデータ量が膨大となる一方、コストは継続的に管理しておかなければなりません。また、開発および対応期間を短縮して新しいセンサや機能を適切なタイミングで量産化できるようにし、実車の安全性を常に確保することも必要です。
understand.ai社では、どのようにお客様をサポートしていますか。お客様にとっての利点は何でしょうか。
当社は、自動輸送システム向けのグラウンドトゥルースデータを生成するためのアノテーション機能を開発しています。認知部の妥当性を確認するには、認証関連分野のデータが大量に必要です。妥当性確認の際には、認知部の機能をいわゆるグラウンドトゥルースと比較しますが、当社は人工知能と機械学習を活用して、アノテーション作成プロセスを完全に自動化しています。私たちの目標は、妥当性確認データを処理する際の手作業によるラベル付けのステップを省くことです。従来のアノテーション手法では、ラベルの調整と確認のために非常に多くの手作業を要していました。そのため、大規模な妥当性確認プロジェクトの場合は優に数百~数千人もの担当者が必要となります。これは非常にコストがかかるだけでなく、調整も困難で時間も要します。しかし、当社の自動化手法であれば、大規模な妥当性確認プロジェクトを手頃な価格で処理し、体系的な手法による検証でデータ品質を保証し、さらにはプロジェクト期間を大幅に短縮することが可能です。
understand.ai社では、通常どのようにプロジェクトを進行していますか。
当社では、お客様からデータを受け取るか、またはデータパイプラインを構築することで継続的にデータを処理します。必要な場合は、データをインポートし、適合したうえで匿名化します。これは、人間がトレーニング用のデータを見繕う場合などにデータを選択しやすくする目的で行うものです。次に、ラベリングロボットを開発してカスタマイズやトレーニングを実施します。ここでは、反復処理を用いて目的のレベルに達するまで自動化の品質を向上させます。その後、データを処理してラベルの自動生成を行います。最後に、お客様に結果を返送します。当社のプラットフォームはクラウド上でSaaSソリューションとして稼働することが可能であり、必要に応じて規模を大きくも小さくも調整できます。
understand.ai社に期待できる戦略的方向性はどのようなものですか。
当社は、大規模な妥当性確認プロジェクトの自動化に注力しており、特に品質、拡張性、および柔軟性の向上を重視しています。当社にとって品質の確保とは、求められるデータ品質レベルを満たすことであり、同時に適切な技法で品質の適合性を実証することでもあります。拡張性については、データ量の増大に合わせてシステムを調整し、それを大規模に並列化できるソリューションを日々開発しています。また、多数のプロジェクトに同時に対処できるよう、プロセスの自動化にも絶えず注力しています。当社にとって柔軟性とは、機能とプロセスの両方の視点から、お客様の要件に合わせてソリューションをすばやく調整できることです。OEM各社やTier1サプライヤ、B2B物流業者、AD/ADAS分野の技術系企業などが使用する開発ツールチェーンの一部となるソリューションを実現することが当社の目標です。
既に報告できるような成果はありますか。
当社は、当社内、そしてdSPACEという枠組みにおいて、非常に明確な戦略と実行プランを持っています。当社は極めて力強く成長しており、対象分野のプロジェクトで当社のソリューションを活用するお客様はますます増加しています。また、業界やお客様、パートナー、アナリストからは全体的に前向きなフィードバックをいただいています。当社は、業界でこれまで未解決だった問題に対応するソリューションを提供しているという自負を持っています。
取材にご協力いただき、ありがとうございました。
dSPACE MAGAZINE、2022年5月発行