Stellantis(旧Fiat Chrysler Automobiles:FCA)社のグローバル電子エンジニアリングおよびソフトウェア - 仮想エンジニアリングチーム(EE&SW VE Team)では、アジャイル開発と仮想化技術を採用し新しく改善されたソフトウェアの開発とテストプラットフォームを実装することで、早期段階での妥当性確認を実現しています。
FCA社のEE&SW VE Teamでは、新しい要件やコードのエラー、手順の統合など、ソフトウェア開発サイクルのあらゆる段階で発生し得るさまざまな問題に対処し、それらの変更に応じて速やかに調整できる新たなテストプラットフォームを活用することで、業務の効率性を最大限に高めています。EE&SW VE Teamに所属し、FCA US LLC.の車両モデリングおよび統合部門のリーダーを務めるSangeeta Theru氏は、「FCAでは、効率的なソフトウェア開発環境やテスト手法に最も重点を置いています」とし、「各種の工程を迅速化したいならば、仮想化の概念が重要になります」と述べています。仮想化によってもたらされる主な利点には、次のものがあります。
- テストをフロントローディングすることで、コストのかかる反復作業を削減
- 複雑な新機能を開発の早期段階で反復的にテスト
- 特殊な物理コントローラが不要で、ラップトップなどの通常のPCで開発作業が可能
- xILテストプラットフォーム[MIL(Model-in-the-Loop)、SIL(Software-in-the-Loop)、およびHIL(Hardware-in-the-Loop)]において、プラントモデルやテストシナリオを再利用することが可能
貴重な時間とコストを節減
FCA社が仮想テストプラットフォームを採用するにあたって大きな動機の1つとなったのが、ソフトウェアの妥当性確認を早期の段階で実施できることでした。これは、テスト対象電子制御ユニット(ECU)の仮想バージョンを作成することで可能になります。バーチャルECUは、実際のECUを物理的に狂いのないよう再現したものであり、SIL(Software-in-the-Loop)でこれを利用すれば、初期のプロトタイプを入手する前の段階でも早期に、ECUソフトウェアに現実に適合させた妥当性の確認を与えることができます。このようなプロセスを用いると、開発の極めて早い段階で問題を特定し、デバッグすることが可能なため、貴重な時間とコストを節減できます。EE&SW VE Teamは2016年に仮想テストプラットフォームを用いた開発プランに着手し、dSPACEと緊密に協力してその実現に取り組んできました。このテストプラットフォームには、仮想検証に対応したPCベースのシミュレーションプラットフォームであるdSPACE VEOSが含まれています。VEOSを使用すると、特定のシミュレーションハードウェアに依存することなく、開発の早い段階で、制御モデル、Functional Mock-up Units(FMU)、バーチャルECU(V-ECU)、車両モデルなどのさまざまなモデルをシミュレートすることができます。VEOSの最新バージョンでは、自動運転アプリケーションなどの高度な演算処理が求められる機能に対応したAUTOSAR Adaptive Platformをサポートしています。FCA Italy S.p.A.の仮想エンジニアリング部門の責任者であるGian-carlo Di Mare氏は、「反復作業にコストがかかるのはなぜか、それは問題やバグが車載プログラム開発の極めて後の段階になってから特定されるためです。しかし、仮想化によって早期の段階で妥当性確認を行うと、このような作業を削減できます」とし、「当社では、モデルベース開発環境やECUテストワークフロー全体にVEOSやその他の仮想テストプラットフォームテクノロジを適切に統合しています」と述べています。同社の統合型ワークフローは各種のデータベースやワークフロー管理システムで構成されており、さまざまなテストフェーズやxIL環境(MIL、SIL、HIL)を多くのチーム間で共有できるようになっています。FCA社では現在、自社製のキーワード駆動型ツール(VST)を使用することで、テストオートメーションを実現したり、IBM Rational Quality Manager(RQM)の要件やテストケースを追跡および確認できるようにしています。ゆえに同社では現在、すべてのテスト施設においてグローバルなテストをリモートで実行することが可能になっています。さらに、同社ではdSPACE Test Solution Package(TSP)を使用しています。TSPは、ECUテストを自動化して効率的に行うための製品バンドルソリューションであり、dSPACE SYNECT(データ管理および連携ソフトウェア)、dSPACE AutomationDesk(テストオーサリングおよび自動化ツール)、およびdSPACE Test Authoring Framework(TAF)を組み合わせたものです。FCA US LLC.車両モデリングおよび統合部門のSisay Molla氏は、「当社ではTSPを使用することにより、IBM RQMに対するトレーサビリティを確立し、さらにはシステムのテストやパラメータのバリエーション処理に対応したり、最適化済みのテストオーサリングおよびテスト手順をRTC/RQMプロセスに同期したりできるようになりました」と述べています。

VEOS is a PC-based simulation platform for validating the software of electronic control units (ECUs) in early development stages.
テスト効率の向上
EE&SW VE Teamは、仮想テストプラットフォームテクノロジを整備することにより、1)HILにおけるテストの削減、2)SIL(Software-in-the-Loop)へのテストのフロントローディング、および3)たくさんのチームおよびサプライヤ間におけるすべての開発段階を通じた要件の同期と管理、という3つの大きな目標の実現に取り組みました。仮想テクノロジを活用することで、EE& SW VE Teamはこれまでに、量産用ベーシックソフトウェアを備えたAUTOSARソフトウェアアーキテクチャベースのクローズドループ仮想テストプラットフォーム上でハイブリッド制御プロセッサ(HCP)やエンジンコントローラを仮想化および実装することに成功しました。また、同チームは仮想トランスミッションコントローラの統合やレガシーコードの仮想化にも取り組みました。
チームのグローバルな取り組み
FCA社のプロジェクトチームは、仮想テストプラットフォームの開発や実装のため、dSPACEと緊密に協力してきました。コア グループには、EE&SW VE Teamのメンバーで構成され、彼らはクローズドループ仮想テストプラットフォームを構築するためのバーチャルECUの生成やプラントモデルへの統合を担当しました。 ユーザー グループには、FCA Controls Team Centers of Excellences(COEs)やソフトウェアチームが含まれています。この大きなチームは、FCA北アメリカ、イタリア、ブラジル、インドなどのFCA各社のさまざまな担当者と米国およびドイツのdSPACEチームをベースとする非常に国際色豊かなメンバーで構成されました。FCAとdSPACEのチームは協力して、サードパーティ商用ベンダー製のAUTOSARベーシックソフトウェアの統合や独自のソフトウェアアーキテクチャを使用した新しいECUの開発、さらには複雑なデバイスドライバの仮想化など、複数の課題に挑戦しました。同社では現在、仮想テストプラットフォームを制御開発やソフトウェアテストに利用しています。これは、早期妥当性確認の将来性が高いことを示すものです。

An example of a high-level workflow for hybrid control development. Using virtual ECUs and the HCP Virtual Test Platform, the development
team benefits from a more efficient build and time process and can perform tests earlier.
著者について:

Sangeeta Theru
Vehicle Modeling and Integration Lead, EE&SW VE, FCA US LLC.

Giancarlo Di Mare
Head of Virtual Engineering, FCA Italy S.p.A.

Sisay Molla
Vehicle modeling and Integration, FCA US LLC.