自動運転におけるさまざまな状況を再現するために使用されるシミュレーション環境は、仮想的な惑星のようなものだと言えます。そこでは車両が無数の交通状況に対処する必要があります。まさにそのようなデジタル惑星を提供するソフトウェアであるSIMPHERAには、シミュレーションおよび妥当性確認向けのさまざまなdSPACE製品がすでに実装されています。
火曜日の朝、機能開発者であるBelle Fisher氏はコンピュータを起動し、ウェブブラウザ経由で会社のシミュレーション環境にアクセスし、中国にいる同僚のYang Yu氏が準備した新しいテストシナリオが適切に計画され、使用できるようになっているか確認します。この新しいシナリオは、Belle氏と彼女のチームが現在取り組んでいる、高度な自走運転向けのアルゴリズム評価に最適なシナリオです。その後、Belle氏はそのシナリオを自身のシミュレーション環境に統合し、アルゴリズムのテストを行います。シミュレーションによる自動検証で得られたデータインサイトをもとに、アルゴリズムはさらに最適化されます。この作業を通じて妥当性が確認された新しいバージョンのアルゴリズムが出来上がります。
すると、その日のうちにセンサの専門技術者であるイスラエルのRoni Cohen氏が、上記のシミュレーション環境に新しいレーダーセンサのモデルを統合します。このレーダーセンサはセンサメーカーのデータをもとに、特定のコーナーケースにおけるステアリング動作を改善するため既存のセンサの代わりとして採用されたものです。Belle氏はそのレーダーセンサのモデルをすぐに仮想環境上のテスト車両に実装することができます。その後、関連するコーナーケースをテストケースとして選択して、望ましい改善が本当に実装されるかどうかをシミュレーションで検証することも可能です。
信ぴょう性の高い検証結果を実現
翌朝になると、車両制御プロジェクトマネージャがチームミーティングを開催し、新しいセンサを含む車両全体の挙動を確認するための統合テストを指揮します。そこで、Belle氏はパラメータをすべて自動的に変更した1,000以上のテストケースを生成し、それらを使用してシミュレーションを実行します。クラウド上でマルチインスタンスシミュレーションが実行できているおかげで、開発チームは昼食後には結果を確認できます。そして今度は、過去のシミュレーション結果と比較し、差異を確認することも叶います。
こうして車両の制御機能は新たな改善手法にしたがって定められた要件を満たしていき、妥当性が確認された新しいバージョンとして完成します。
チームではまずSoftware-in-the-Loop(SIL)テストで妥当性を検証したのち、次の妥当性確認ステップとして、実際のハードウェアを使用して車両制御機能の挙動をリアルタイム条件下で決定する作業に取り組みます。一方この作業と並行して、サービスプロバイダ側にはECUにソフトウェアを実装するタスクが求められます。彼らはECUをリアルタイムでテストするために、開発チームと同じシミュレーション環境を使用し、同じテストスイートにアクセスして適切なテストシナリオを選択します。その際SIMPHERAを使えば、サービスプロバイダはHardware-in-the-Loop(HIL)シミュレータをテストプラットフォームとして使用できます。この統合レベルでは、テスト成果物をそのまま再利用可能です。このことは妥当性確認プロセスの効率性と信頼性の向上につながります。
上記の事例のいずれか、またはすべてに関連するお客様には、当社のこの新しいソリューションーーシミュレーションと検証のためのクラウドベースソリューションーーが最適な選択肢となります。以下に、お客様独自のタスクにSIMPHERAを活用する方法をご紹介いたします。
SIMPHERAの概要
SIMPHERAとは、自動運転のシミュレーションおよび妥当性確認に使用できる、まったく新しい概念に基づいたウェブ上のクラウドベースのソフトウェアソリューションであり、
自動運転車両の迅速な実用化を目指して設計された革新的な手法です。このソフトウェアを使用すると、開発の早期の段階で各種のアプリケーションのシミュレーションが実現され、早期に分析することで、開発の複雑さに対処することができます。SIMPHERAでは、ビークルダイナミクスやトラフィックなどをシミュレートするための強力な機能を備えており、ユーザはその機能を簡単に利用できます。これにより、simpliCityと呼ばれる仮想世界で車両制御などの新しいアルゴリズムをテストすることが可能になります。開発者は仮想環境下で、ランダムな要素を一切除いた再現性の高い仮想車両のテスト走行をすることで、このアルゴリズムテストを実行できます。車両、周辺環境、テストシナリオ(この記事ではトラフィックシナリオを意味)は、すべて自由に定義またはインポートが可能です。極めて汎用性に優れたsimpliCityの仮想世界では、任意のコーナーケースを再現し、幅広いテストカバレッジを保証しています。また、各種のコーナーケースは容易にパラメータ設定できるため、新しいバージョンを生成すればテストの深度が向上します。なお、各シミュレーションの実行後には、たとえば緊急ブレーキをかけても衝突を避けられない速度など、車両の挙動に関する詳細かつ有益な解析結果が提供されます。
効率化のための3つの柱
SIMPHERAでは、あらかじめ決められたスケジューリングに基づいて、非常に現実的なシミュレーションを容易かつ直感的に作成および実行し、評価することができます。SIMPHERAのユーザインターフェースでは、各種の役割に基づいたユーザガイダンスが提供されます。
- Prepare :車両の定義、シナリオの作成、およびテスト対象機能の管理を行います。
- Simulate :選択したシナリオとテスト対象機能に基づいて、ユーザがシミュレーションの様子を見ながら、対話をするように車両をシミュレートします。
- Validate :テストスイートを作成し、さまざまなパラメータバリエーションを用いて具体的なテストケースを大量に実行し、その結果を分析します。
この構造化された手順は、エラーを回避し、効率性を高めることに貢献します。さらに、さまざまなソリューションが高度に統合され、全員が同じデータに基づいて作業できるようになっているため、チーム間や担当者間での「食い違い」が生じません。また、高い透明性も維持されているため、関係者全員がお互いの成果物を確認できます。
時間や場所を問わずにグローバル規模で共同利用
SIMPHERAは、クラウド上や企業のサーバクラスタ上のウェブベースソリューションとして機能し、いつでも直接アクセス可能であるため、ユーザやITインフラストラクチャの場所を問わず柔軟な対応が可能です。つまり、グローバル規模での共同利用に最適であり、あらゆるユーザのニーズに応えられるということです。長時間のインストール作業は一切なく、ライセンスさえ取得すればすぐに使用していただけるため、分散型のチームを立ち上げて効率的なプロセスを導入した時点ですぐに共同作業を開始することができます。
シナリオベーステスト
シナリオベーステストとは、自動的に生成された特定の運転状況をテストすることです。特殊な交通状況や、予期せぬ動きをする歩行者の挙動などを自動的に生成することで、運転機能の検証の精度を限界まで高めることができます。また、仮想テスト環境で再現された運転状況は何度でも繰り返し実行できるため、公道で実際に走行試験することなく安全な環境で運転機能のテストが可能です。さらに、これらのシナリオは抽象化してパラメータ化できるため、パラメータを変化させれば、単一の「論理」シナリオから無数の「具体的な」シナリオが生成されるので、さらにテストカバレッジが広範囲になります。SIMPHERAは、(Euro NCAP、ALKSなどの)関連する運転状況のライブラリを備えており、必要に応じてそれらを拡張することが可能です。
スケーラブルなテストをクラウド上で実行
路上で起こりうるあらゆる状況において、運転機能が安全に動作することを正確に確認するためには、極めて膨大な量のテストが必要になりかねません。しかしSIMPHERAは、特にそのようなテストやバリアントの数が大幅に増加するケースで強みを発揮します。たとえばクラウド上で複数のテストを並列実行することにより、テストの規模を調整したり、テストカバレッジやテスト深度を向上させた場合でもプロジェクトを予定通りに進めることが可能です。SIMPHERAを活用すれば、常に質が高く完成された検証を行えるため、アルゴリズムの信頼性が向上し、車両の安全性も保証されます。
クラウド上でテストを自動作成し、実行、評価
SIMPHERAでは、いったんセットアップの準備が整えば、その後のプロセスは簡単なため、あらゆる機能開発者がアルゴリズムを迅速にテストできます。Linux Dockerコンテナは、Kubernetes(コンテナ化されたアプリケーションの展開、スケーリング、および管理を自動化するシステム)により、バックグラウンドで自動的に調整されます。その後は、個々のシミュレーションジョブが自動的に実行ノードに割り当てられます。ここにユーザの介入は必要なく、ジョブが実行されると、SIMPHERAはその結果の概要を分かりやすく表示します。
SILおよびHILプラットフォームでのシームレスなテスト
ECUソフトウェアの妥当性確認は、早期の段階でのSIL(Software-in-the-Loop)テストから始まり、ECUや車両の動作をリアルタイム条件下で確認し検証するHIL(Hardware-in-the-Loop)テストへと続きます。SIMPHERAはこれらのテストプラットフォームのいずれにもアクセス可能なため、SILおよびHIL間でテストの成果物を再利用できるだけでなく、異なるプラットフォーム間での変換も不要です。そのためエラーは減り、時間とコストの両方が削減されます。これはトレーサビリティやホモロゲーションのための基本的な前提条件でもあります。
すべての検証作業を1つの統合環境で行うことで、開発効率を高めることができます。このように、SIMPHERAは、ECUソフトウェアやECUのシミュレーションおよび検証のエンドトゥエンドのソリューションだと言えます。
完全にオープンなフレームワークにより、最大限のテストカバレッジを実現
SIMPHERAの設計思想は、検証をカバレッジ駆動型で実行し、数値化して信頼性を保証することです。これは、大規模な妥当性確認や堅牢性テストなどを保証することで実現されています。SIMPHERAには、検証済みのシミュレーションモデルや確立されたシミュレーションプラットフォームなど、業界で実績のあるさまざまなテクノロジが搭載されているため、特にテスト対象ソフトウェアの機能の妥当性を高い信頼性を維持しながら検証することができます。
SILおよびHILテスト間においても、一貫性の高いデータ管理を実現することはトレーサビリティやホモロゲーションのための基本的な前提条件です。さらに、SIMPHERAはオープンかつ柔軟性に優れているため、ホモロゲーション分野のパートナーソリューションを統合することができます。
SIMPHERA: 次のステップ
SIMPHERAは、各分野のお客様との緊密な連携の下でさまざまな試験を行いながら開発されているため、運転支援システムや自動運転機能の検証を行う業界が早急に必要とする各種の機能が搭載されています。また、多くの機能追加も既に計画されており、現実的なセンサシミュレーションのより深いレベルでの統合や、各種のテスト手法の追加などが直近の項目となっています。dSPACEでは、お客様との協働の中でSIMPHERAの開発を加速したいと考えております。お客様の要件やご要望を実装するお手伝いができれば幸いです。