SERES社は、輸送テクノロジ関連のグローバル企業であり、より安全でクリーン、かつ持続可能なコミュニティを創造するインテリジェントな電気自動車を開発製造しています。また、世界中の市場に安全性、利便性、およびパフォーマンスが向上した車両を提供することに注力しています。同社は米国、中国、日本に製造、組み立て、研究開発施設を保有運営しています。
SilkRidesとAD戦略
SilkRidesは、SERES社の自動運転(AD)テクノロジを開発している事業部門です。同部門はシリコンバレーをルーツに持つOEMメーカーの系統であり、さまざまな自動車メーカーに価格競争力が高くオープンな自動化ソリューションを提供しています。2017年に設立されたSilkRidesは、市街地と高速道路のシナリオにおいてLevel 3およびLevel 4の自動運転機能を実証しました。
SilkRidesのADスタック
同部門は自動運転車両を開発製造するために求められるあらゆる技術を担当しています。これは開発だけでなく安全関連分野の妥当性確認のための認識、計画、および制御の専門技術や無線(OTA)でのソフトウェアアップデート、ハードウェア設計も含みます。その重要な要素が、一部を人工知能に準拠したドメイン制御ユニットです。そのドメイン制御ユニットがセンサのデータを評価し、走行戦略を決定します。第一段階では、このユニットはプロトタイプコントローラとして実装され、徐々に量産のために発展していきます。
ADの妥当性確認における課題
自動運転システムが平均的な人間のドライバーと同じくらい安全であることを証明するには、何十億マイルもの現実世界での走行という妥当性確認が必要になりかねません。さらに、ソフトウェアをアップデートするたびに厳しいテストをする必要があります。このタスクを達成するにはリソースが限られており、期日もタイトであるため、大規模な路上テストは非現実的です。開発と妥当性確認のサイクルを高速化するために、さまざまなレベルでのシミュレーションをもって検証および妥当性確認のフローを確立するよう目指しました。この手法であれば、各ソフトウェアのリリースの際に、重要なシナリオやコーナーケースを路上テスト前に検証することができます。

dSPACEレーダーテストベンチ
dSPACEレーダーテストベンチは、レーダーセンサの無線スティミュレーションにより、作用連鎖全体をテストします。必要な場合、シミュレーションに車両のフロントバンパーやシャシの部品を含めることもできます。このようにして、レーダー前部での信号検出からレーダーECUでの評価まで、すべてのソフトウェアおよびハードウェアレイヤーを考慮に入れることができます。この非常にコンパクトなテストベンチは、基本的に送受信機能に対応した統合アンテナ付き電波暗室、適合されたdSPACE Automotive Radar Test System(DARTS)、およびSCALEXIO HILシミュレータによって構成されています。テストの際は、レーダーセンサは電波暗室に固定され、実際のレーダーエコーにより信号が与えられます。この整合されたエコーにより、レーダーECUはレーダーオブジェクトの距離、速度、レーダーの開口面積(RCS)、および角度を忠実に決定します。前方レーダーは2台のDARTS 9030-Mユニットを用いて検証されます。また、コーナーレーダー向けには、特に短距離シミュレーションに有利なDARTS 9030-MSユニットを組み込んでいます。この構成は、関連するすべての運転シナリオを十分に検証できるものです。
SilkRidesでのテストの作業フロー
SilkRidesにおいて各ソフトウェアのリリースは、テスト車両へ搭載する前に多角的なレベルのテストを受けることになります。まず、単体テストとモジュールテストを実施して、新しいソフトウェアコンポーネントが意図した通りに動作することを確認します。次に、この新しいコンポーネントを決定モジュールおよび計画モジュールの残りの部分と統合し、SIL(Software-in-the-Loop)テストを行います。これはパフォーマンスを評価するために、ソフトウェアの中でシミュレートされた車両を関連のテストケース上で走らせるものです。SILテストの結果が良好である場合は、新しいソフトウェアのリリースがドメインコントローラのハードウェア上でHIL(Hardware-in-the-Loop)テスト用にコンパイルされます。このプロセスは仮想道路といった被試験物に対するデータについて、一定の整合性を保持しています。SILおよびHILのテストプロセスの間にはソフトウェアそのものやソフトウェアとハードウェアの連携に関する多くの不具合が確認修正されるため、ソフトウェアリリースの妥当性確認に求められるテスト車両の台数や路上テストの走行距離を削減することができます。
HILテストの要件
SilkRidesでの自動運転機能の開発において、HILテストを通じて解決しておくべき重要な要件がいくつかありました。
- 社内でのソフトウェアとハードウェアの統合:HILテストは可能な限り早期に私たちのドメインコントローラ上でソフトウェアをテストできるよう意図されたものです。これにより、組み込みソフトウェアの統合の問題やハードウェアでのリアルタイム操作によって生じた問題を実車でのテスト前にすべて特定し、修正することができます。
- サードパーティ製センサの統合テスト:無線(OTA)レーダーテストベンチやカメラテストベンチを使用して、HILテストセットアップの際に実際のセンサを統合することが可能です。センサのドライバー、ハーネス、およびセンサ自体が原因で発生した問題にはHILテストで対処することができます。
- コーナーケースをラボで安全にテストできるプラットフォーム:際どいコーナーケースやハードウェア故障のテストは、路上で行うと危険を伴いかねません。またSILシミュレーションでも不可能です。HILセットアップを使用すると、このような潜在的に危険なケースの妥当性をラボで安全に確認することができます。この詳細に関しては、「各機能を故障状態に置いた場合のシミュレーション」の項をお読みください。
テストシステムの構成
ラボで詳細かつ総合的なテストを実施するためには、SilkRidesのADスタックをカバーできる完全かつ柔軟性の高い構成が必要でした。そのため、SERES社はdSPACEと協力することにより、センサ、コントローラ、およびアクチュエータの統合的なテストに対応できるシステムを定義し、実装しました。このシステムは、同社の車両を本物のように再現できるHILシミュレータを搭載しており、同期された4つのセンサテストベンチによって拡張したり、実際のレーダーやカメラを制御ループに組み込むことができるものでした。また、実コンポーネントも使用できるため、開発の早期の段階で多様なコンポーネントの性能を評価することが可能でした。
クローズドループテスト
同社では次に、シミュレートされた交通環境をセンサテストベンチに供給し、レーダーセンサやカメラセンサのシミュレーションを行いました。ここでは、認知アルゴリズムやセンサ融合アルゴリズムベースで開発したADソフトウェアを搭載した同社のコントローラをテスト対象デバイスとして扱い、センサ信号をテスト対象デバイス向けの入力として扱いました。このような手法により、すべてのADコンポーネントが統合され、車両の実際の挙動を考慮に入れることができるようになりました。また、すべての仮想テストドライブは3Dアニメーションによって、リアルタイムにモニタリングすることができます。

dSPACEカメラボックス
dSPACEのカメラボックスには、カメラの検出特性をテストするため、カメラのイメージャチップをOTAでシミュレートする機能が備えられています。またこの目的のために、シミュレートされたセンサ環境(複数の車両、歩行者、道路沿いの構造物などのトラフィックシナリオ)を表示するモニターも搭載されています。そしてカメラはさらなるデータ処理も行います。余分な光源やグレアを最小限に抑えるために必要な全てのものが、この密閉された箱の中に備わっています。
テストの可能性と結果
このテストシステムはHILシミュレータおよびテストベンチに基づいており、多様なテストの可能性をもたらしています。さらに同一条件下で高速な評価を実行できるシステムでもあります。上記に掲載の評価とテストが、SERES社が何を達成したかを明らかにしています。
センサの柔軟な統合
自動運転の分野は急速に進化しています。そのため、変化に適応できる資産に投資をすることが重要です。そこで同社では、多様なセンサタイプとセンサ設定に合わせて柔軟に調整できるdSPACEの無線レーダーとカメラ用のテストベンチを選択しました。OTAのアプローチは妥当性テストを非常に容易にします。この手法は、定義された条件や、特に境界値におけるセンサ(信号処理ソフトウェアを含む制御ユニット全体)の挙動を評価することができます。オブジェクトがセンサにより検出されるか否かというケースはセンサ信号の処理を行うソフトウェア開発にとって重要なところであります。
レーダーテストベンチを使用したセンサのベンチマーク評価
SilkRidesでは、Tier 1サプライヤのレーダーセンサを利用しているため、サプライヤの選定の際には、複数のセンサ間の性能に関する正確なベンチマーク評価を重要な検討事項の1つとしています。一般に、車両を使用したレーダー性能のテストには広大な敷地が必要とされ、グラウンドトゥルースデバイス搭載のホスト車両とターゲット車両を同時に動作させることが必要です。その点、クローズドループレーダーテストベンチがあれば、テストの多くをラボで実施でき、明確かつ一貫性の高い結果を得ることができます。それに貢献できるのが、全てのレーダーテストベンチに搭載されているdSPACE Automotive Radar TestSystem(DARTS)です。可動式アンテナによって無線でレーダーエコーを生成するので、センサの特性が極めて正確に特定されます。
将来の用途に合わせて拡張可能
コーナーレーダーは車両の前面、側面、背面に設定できるため、カメラ1台、前方レーダー1台、コーナーレーダー2台のHILセットアップは、このシステムの高速道路運転機能の大半をシミュレートするのに十分な装備です。次の段階として、追加のカメラ、レーダー、LiDAR、超音波センサ、およびGNSSシミュレータをSCALEXIOプラットフォームに組み込むことも可能です。柔軟なSCALEXIOセットアップにより、ハードウェア、ソフトウェアどちらでもこのような拡張ができます。たとえば、3D環境を含むLiDAR伝送チャンネル全体をシミュレートするdSPACEセンサシミュレーションツールチェーンからLiDARモデルをシステムに統合することもできます。
各機能を障害状態に置いた場合のシミュレーション
SAE Level 3以上の自動運転システムの開発では、動作設計ドメインのすべてにおいて、システムの大部分を障害状態に設定しなければならない場合があります。そのような障害状態を車両で再現するのは困難であり、危険ですらあります。一方、HILテストでは、障害が発生した場合の主要機能とバックアップ機能間の引き継ぎ、およびさまざまな道路状況での安全な停止操作をすべてシミュレーションで再現することができます。
自動化により回帰テストを実現
AutomationDeskなどのdSPACEのツールは、起動時に自動的にテストベンチが設定され、手入力のステップがかなり削減されます。さらに当社のテストの多くはユーザの介入なしに自動的に実行されるので、新しいソフトウェアリリースまたはハードウェアの変更ごとに一定数のテストケースを評価することができます。
HDマップによるシナリオ生成:ベイブリッジ
SilkRidesでは、高速道路運転の車線維持、車線変更、および経路設定の機能にサードパーティ製のマップを使用しています。dSPACE ASMにHDマップをインポートし統合することで、実車によるテストと比較しても遜色のない高精度なシミュレーション環境を実現することができました。ここサンフランシスコベイエリアでは、ベイブリッジでの合流や分岐による複雑なシナリオが数多く存在します。このような難しいテストケースでも、ASMにベイブリッジのマップをインポートすることにより、HILテストセットアップで再現することができました。
まとめと展望
dSPACEのテストシステムでは、仮想的な車両にセンサやコントローラを統合し、これらを組み合わせてテストを行うという独自の手法を提供しています。この極めて現実に即したテスト環境は、開発の早期段階においても、使用するハードウェアやソフトウェアコンポーネントのパフォーマンスに関するさまざまな問題を察知することができます。このため、SERES社の開発チームは革新的な決断を早い段階で下せるようになり、開発プロセスの効率化につながりました。また、テストケースが容易に再利用できることから、トラブルシューティングを確実に検証するための回帰テストも実施できます。さらに、柔軟なテストシステムとテストライブラリを拡張することにより、新たな要件に対応することも可能です。堅牢性と信頼性に優れたテストシステムで検証された新型車両が路上に登場する日も近いでしょう。
著者について:

Ziqi Zhu
SERES (Santa Clara, CA, USA)

Hala Al-Khalil
SERES (Santa Clara, CA, USA)

Samuel Rayseldi
SERES (Santa Clara, CA, USA)