自動運転に使用されるテクノロジは複雑化の一途をたどっていますが、それらを日常の用途に適合させたりシステムの安全性を保証したりするには、実用化のはるか以前にテストを行わなければなりません。dSPACEおよびunderstand.ai社のシミュレーションシナリオ生成ソリューションを使用すると、特殊なハードウェアやソフトウェアに基づいたシミュレーションにより何千というセーフティクリティカルな運転シナリオをテストすることができます。
dSPACEとunderstand.ai社は、人工知能(AI)に基づく革新的な手法により実際に計測された生データからシナリオを生成する新しいサービスを提供しています。オブジェクトリストを車載環境でリアルタイムやオンラインで生成したりする従来の方法に比べ、生データからシナリオを後で生成する方法では、処理能力に関する制約が一切なく、データベースでオブジェクトが誤って検出されたり、検出されなかったりすること(誤検出や検出漏れ)を原因とした不具合を回避することができるという利点があります。道路交通のシミュレーションでは通常、可能な限り多くのケースを網羅するため、実際のプロトタイプが完成する前の段階で多数の仮想的な要素を用いたテストを行います。その場合、有意義な結果を導くためにテストシナリオをバリエーションの意味でも、数量という意味でも数多くのテストで使用します。ただし、これには現実的なシナリオが必要となります。さらに、これらのシナリオには特別な要件が課されるため、専門的なシナリオ生成が不可欠です。つまり、シナリオは、現実の多様な環境におけるさまざまな状況を反映したものである必要があるのです。それと同時に、天候や交通量などの変動性の高い要素だけでなく、クリティカルな状況とそれ以外の状況のいずれもがバランスよく混在していることが極めて重要です。
車載からラボへ – 実データを使用したテストシナリオの活用
現実の状況分析と自動運転の妥当性確認
当社では、2種類のシナリオを区別して使用することで、お客様の要件を満たせるようにしています。一方は自動運転の妥当性を確認するために使用する論理シナリオであり、もう一方は現実の状況のシミュレーションにおいて欠陥のあるアルゴリズムを解析するために使用するリプレイシナリオです。リプレイシナリオでは、記録されたセンサデータに基づいて現実の状況を正確に再現することができます。この種のシナリオは、パラメータ設定で調整することはできませんが、ラボで誤動作またはその他の現実に起こり得るイベントをシミュレートする場合に優れています。これにより、ラボの再現可能な条件下で運転機能の欠陥を調査して修正することができます。また、現実のシナリオのセンサデータとシミュレーション上の同一の仮想シナリオのセンサデータを比較してセンサモデルの妥当性確認を行うこともできます。論理シナリオでは、車両の動きを抽象化および一般化してシナリオをパラメータで表現するため、パラメータを調整することでシナリオを変化させることができます。これらのシナリオを使用すると、ADAS/ADアルゴリズムの妥当性確認をシナリオベースでテストできるようになります。生成されたシナリオの大きな利点は、事故などの重大な状況をシミュレートし、必要に応じて何度でも実行できるという点です。これにより、ADAS/ADアルゴリズムにおける課題となるパラメータを正確に特定することができます。
シナリオの生成
シミュレーションやテストでシナリオを使用するためには、まずそれらを生成する必要があります。シナリオの生成には、さまざまな方法があります。本記事の例では、最初に計測データを使用したシナリオ生成について説明します。これには、ビデオ録画データ、LiDARのポイントクラウド、車載バスデータを使用します。これらのデータの記録には、dSPACE AUTERAなどの専用のデータロギングハードウェアを用います。この方法でシナリオを生成する場合、そのリアリティはデータの量と質の増加とともに向上します。また、さまざまなアルゴリズムを組み合わせて使用すると、すべての道路利用者のモーションプロファイルや道路、静的環境などの構築に不可欠なすべての要素を反映した3Dシーンを含む現実のシナリオを、セマンティック一貫性の高い形で再現することができます。ここではまず、AIによるサポートを用いた手法により、道路やその周辺環境、道路利用者の軌跡に関する情報を生データから抽出します。この際、understand.ai社では特殊な品質保証手法を使用してグラウンドトゥルースデータを生成することで、シナリオのセマンティック一貫性を確実に保証できるようにしています。抽出したデータは、dSPACEシミュレーション環境でシミュレート可能なリプレイシナリオや論理シナリオ、またはOpenDRIVE®およびOpenSCENARIO®規格に基づくシナリオ記述ファイルに変換されます。こうして、道路の記述や道路利用者の動作プロファイルの記述だけでなく、詳細な3Dシーンが生成されることによって物理センサのシミュレーションが可能になり、さまざまなテストに直ちに使用できるシナリオが生成されます。また、dSPACE ModelDeskなどのシナリオエディタを使用すれば、コンピュータ上で完全に人工的かつデジタルにシナリオを作成し、独自の概念や要件に沿ったシナリオを実現することも可能です。この場合、基本的にシナリオ設計の可能性は無限ですが、最終的にはそれぞれのユーザが求める要件や各自の創造性による制限が生じます。この手法の利点の1つは、コストが高かったり、危険性があることなどにより、実際に何度も記録するのは極めて困難なシナリオであっても構築できることです。計測データから生成したシナリオと人工的に生成したシナリオのいずれにおいても、シミュレートされた車速や天候、道路利用者の挙動といったパラメータは必要に応じてdSPACEソリューションによって調整し変更することができます。シナリオベーステストの大きな利点は、それぞれの処理能力に応じて拡張できることです。さらに、テスト環境をクラウドに移行することもできます。容量が事実上無制限であるクラウドは、仮想検証の分野、ひいては生産チェーン全体にとっても有益な基盤となります。

A scenario for the simulation is generated from the acquired measurement data using the solution from dSPACE and understand.ai.
新たなソリューションポートフォリオ
dSPACEおよびunderstand.ai社のシナリオ生成ソリューションとシナリオベースのテストソリューションを組み合わせて使用することで、お客様は機能プロトタイプの開発に至るまでのさまざまな障害を克服することができます。このソリューションの基盤となるのは、経験豊富な開発者が作成した多数の既存シナリオや、記録された現実のセンサデータやオブジェクトリストに基づいて追加で生成できるシナリオです。これにより、何百万キロメートルものテストドライブを現実的かつ適切な各種シナリオ上で実行できるようになります。
実車によるテストドライブからクリティカルなエッジケースの再シミュレーション 実際の状況の複雑度や現実度をシミュレーションに取り込みます。
- 現実的な交通状況を反映したシナリオを使用します。
- 既存のシミュレーションシナリオを調整して、新しいテストケースを作成します。
- dSPACEシミュレーション環境で追加の変換作業なしですぐに使用できます(OpenDRIVEおよびOpenSCENARIO準拠)。
- データを最大限に活用できます。ペタバイトに及ぶ取得済みのデータをシミュレーションに使用可能です。
dSPACE MAGAZINE、2020年11月発行