電動化モビリティの限界を引き上げるにはどうすればよいでしょうか。ある研究チームが、従来のACモーターよりも軽量で効率的かつ安全でありながら、大型旅客機を推進するのに十分な力を発揮する強力な誘導モーターを開発しました。
オハイオ州立大学のCodrin-Gruie Cantemir博士が率いる研究チームでは、新しいタイプの10 MWリング型モーターを設計するという難題に挑みました。この新しい設計は、ハイブリッド電動推進システムを新たなレベルへと引き上げ、高パフォーマンス、低燃費および省エネルギーを実現する可能性を秘めています。同チームは、現在使用されているどのモーターよりも5倍軽量かつ効率的であるにもかかわらず、大型航空機を十分に運搬できるほどの強力な推進システムを備えたモーター設計を考案し、NASAの研究助成金を受けることとなりました。
このモーター設計の特長は、可変断面の巻線を有する独特な形状のコイルであり、コイルと冷却水が直接接触します。これにより、固体導体にありがちな高周波損失を最小限に抑えながら、高周波でステータ磁界を発生させることができます。
これは、ペースメーカーとして動作する誘導モーターと同一の仕組みです。この設計ではサイズを小さくできるため、ハイエンドモーターに最もよく使用されている永久磁石(PM)モーターよりも軽量でありながら、PMモーターよりも高トルクかつ高出力を生み出せます。
さらに、このモーターには従来の銅伝導体や電線絶縁が使用されていないため、運転時の安全性が高い水準で保証されます。Cantemir博士が率いるチームは、アルミニウムが特定の状況で導体材料として優れた効果を発揮することを発見し、モーターに使用する銅をアルミニウムに置き換えました。また、このモーター設計においてCantemir博士が「画竜点睛」と呼ぶ最大の特長の1つは、このソリューションの配線には絶縁が不要であるという点です。モーターの多くは絶縁が原因で故障するため、この特長には大きな意味があります。

テストデモの開始直後から世界記録を更新する結果を実現
同チームは、1 MWリング型モーターの概念設計バージョンを使用した予備テストにおいて2つの世界記録を打ち立てました。1つ目は絶対正規化連続出力密度に関する記録であり、2つ目は誘導モーターの連続出力密度の記録です。チームは、性能レベルを落として誘導モーターを動作させ、一定の連続出力状態を維持することで、過去の記録を塗り替えました。Cantemir博士は、「このテクノロジは最終的に、小型旅客機、中型および大型ジェット機(737や787など)から平底船や原子力空母に至るまで、ほぼすべての海運用途において、さまざまな形の推進手段となり得ます」と述べています。
dSPACE MicroAutoBoxで制御テストを実行
Cantemir博士は、一般的に高出力モーターはパワーエレクトロニクスが持つ固有の制限の「犠牲者」であるとし、そのため(従来の非同期変調ではなく)一般に同期変調と呼ばれる非常に希有な技術を使用してrpm範囲の上限を目指すことで、出力レベルを高めることができたと述べています。同チームは、2台のdSPACE MicroAutoBoxを使用して、連続スライド同期変調(CSSM)方式と制御アルゴリズムのテストを行いました。dSPACE MicroAutoBoxの一方はモーターの制御に使用され、もう一方は負荷(発電機として動作する別のモーター)の制御に使用されました。

Cantemir博士は、「dSPACEシステムにより、これら2つの新しい技術を実装し、結果を大いに向上させることができました」とし、「これまで実用化されたことがないこの新技術の新たな扉を開くことができたのは、明らかにdSPACEソリューションのおかげです」と述べています。
オハイオ州立大学のご厚意により寄稿。
dSPACE MAGAZINE、2021年11月発行