自動運転向けの新しい運転支援システムや各種機能を優れた信頼性を保ったまま車両に実装するにはどうすればよいでしょうか。Neusoft Reach社では、開発者のワークステーションでの作業からECUの認証に至るまでの工程をエンドトゥエンドでテストできる妥当性確認ソリューションを活用しています。

未来の自動運転車両は、インテリジェントにネットワーク化され、ソフトウェアによって高度な定義が行われることになります。つまり、自動車業界においては、ソフトウェアやサービスの性能が競争上の決定的な要素となります。Neusoft Reach社では、既にAUTOSARに準拠した次世代の車両向けのソフトウェアプラットフォームを提供しています。このソフトウェアには総合的な先進運転支援システム/自動運転(ADAS/AD)スタックが搭載されており、それをドライバー監視システム(DMS)によって補完することで、自動運転(レベル2+/レベル4)や高精細位置調整コントローラを実現しています。同社では、環境を検出したり識別したりするための世界で最もインテリジェントなテクノロジを提供することにより、交通の安全性と効率性の向上に貢献することを目指しています。

インテリジェントな支援システム

同社のADAS/ADスタックは、マルチセンサテクノロジをベースとしており、機械でトレーニングしたアルゴリズムを実装しています。このスタックは、中国の商用車規制やC-NCAPの要件に対応しており、Euro-NCAP 2025ロードマップの要件も考慮しています。なお、現在は次の機能をサポートしています。

  • 渋滞時支援機能(TJA)、
  • アダプティブクルーズコントロール(ACC)、
  • 自動緊急ブレーキ(AEB)、
  • 前方衝突警報(FCW)、
  • 車線逸脱警報(LDW)、
  • 車線維持補助システム(LKA)、
  • 先進パーキングアシスト(APA)、
  • ​​​​​​​アラウンドビューモニタリング(AVM)

目的:堅牢かつ革新的

Neusoft Reach社の目標は、ADAS/ADの機能を継続的に拡張および最適化することです。このプロセスの一環として、同社の開発チームは、既存の開発および妥当性確認ソリューションでは確実かつ効率的に処理できなくなったカメラベースの機能について、パフォーマンス値を定義し直しました。ただし、堅牢な機能を実現するには、新しいセンサフュージョンおよび認知アルゴリズムを開発するだけでなく、システム全体の妥当性を早期の段階で容易に確認できるようにすることも必要でした。

Setup of the ADAS/AD stack from Neusoft Reach.

Challenge: Availability of Suitable Test Data
The forward collision warning (FCW) display is integrated into the navigation system in the vehicle cockpit.

Challenge: Availability of Suitable Test Data

A particular challenge during development is to ensure that the right test data is readily available. One aspect is to use sensor data that is as accurate as possible. Another aspect is to have the option to flexibly use a wide range of corner cases, i.e., particularly critical traffic situations. Exact sensor data can be obtained by logging data during test drives. However, real test drives cover relevant corner cases only insufficiently because critical traffic situations are difficult to perform in reality. Moreover, new test drives are required after a sensor has been changed, which makes the procedure rather uneconomical. Therefore, a simulation-based approach is beneficial because it can simulate arbitrary scenarios, including all corner cases, with a high degree of flexibility. However, the artificially generated data must be based on the physical principles of the respective sensor. A highly realistic sensor model is therefore a decisive criterion for the success of the simulation.

Selecting a Validation Solution
Lane recognition is used for the navigation system as well as for the LDW and LKA systems.

Selecting a Validation Solution

For Neusoft Reach, the first task was to evaluate a suitable development and test solution. In addition to realistic sensor models, the intention was to support developers in the early development phases by means of software-in-the-loop (SIL) simulation. Furthermore, there was a requirement to seamlessly reuse the simulations created to validate the real ECU in hardware-in-the-loop (HIL) simulation. So far, no supplier-independent interface standard has been established for processing raw sensor data. Therefore, a test system for raw sensor data generation must support a wide range of sensor interfaces and protocols. This is the only way for Neusoft Reach to make its control units available to a wide range of customers. Last but not least, this kind of development and test solution must be user-friendly and robust. After evaluating various validation systems, we decided to use a software- and hardware-based solution from dSPACE. Decisive factors were the outstandingly realistic sensor simulation, the flexibility in handling the systems when feeding in data, and the consistency between SIL and HIL simulation.

早期の段階でのSILシミュレーションにより、機能開発をサポート
Neusoft Reach社のさまざまなADAS/ADコントローラの例

早期の段階でのSILシミュレーションにより、機能開発をサポート

Neusoft Reach社は、Automotive Simulation Models(ASM)ツールスイートのグラウンドトゥルースシミュレーションモデルとdSPACE Sensor SimulationのSensor-realisticカメラモデルをベースとしたdSPACEのソリューションチェーンを使用することにより、開発者のワークステーション上で、認知・融合アルゴリズムやADAS/AD機能に対応する完全にソフトウェアベースの妥当性確認ソリューションを利用できるようになりました。同社では、シミュレーションプラットフォームとしてdSPACE VEOSを使用しています。ASMでは、あらゆる道路利用者や交通インフラの動作軌道をシミュレートすることができます。また、dSPACE Sensor Simulationでは、仮想シーンの完全な3Dモデルを生成し、カメラ画像を入手することができます。カメラ画像は、メモリインターフェースを介してテスト対象となるアルゴリズムに供給されます。このアルゴリズムは、画像情報を解析したうえで、ASMでシミュレートされたブレーキなどのシミュレート対象のアクチュエータを最終的に制御するための情報を提供します。もちろん、シミュレーションでは、開発されたアルゴリズムを搭載した完全なバーチャルECUを使用することができます。バーチャルECUは、Simulink®モデル、Functional Mock-up Unit(FMU)、またはAUTOSARをベースとしたバーチャルECUの形式であり、シミュレーションモデルと一緒にVEOSに統合することが可能です。同社では、統合の際にdSPACEから提案されたV-ECUアプローチを採用しています。

In SIL simulation, the vehicle, environment, and sensor models form a control loop with the virtual ECU.

現実的なシミュレーションシナリオの作成

テストドライブの際には、シミュレーションシナリオ、すなわち、あらゆるシミュレーションオブジェクトの位置や軌道が実際のセンサによって記録されます。ここではデータに基づいてシナリオが作成されますが、それらは柔軟に修正することが可能です。たとえば、すべての道路利用者の速度を個別に変更したり、距離を定義し直したり、さらにはオブジェクトのサイズを変更することなどができます。これにより、開発者はアルゴリズムのパフォーマンスを早期の段階で特定できるようになります。これは、関連するすべてのコーナーケースでも同様です。開発者は、C-NCAPなどの手作業で生成したシナリオも使用できます。

制御ユニットの妥当性確認をHILシミュレーションで実行

制御ユニットの妥当性確認をHILシミュレーションで実行

同社では、ADAS/ADソフトウェアの新しいバージョンをECUに実装した際には、必ずHILシミュレーションを使用してECUテストを実施しています。制御ユニットを運用するためには、その環境、すなわちセンサシステムや車両環境を含めた自動車をSILシミュレーションと同様に十分にシミュレートする必要があります。ただし、ECUハードウェアやカメラのすべての信号処理ステージをテストに完全に組み込むには、シミュレート済みのセンサデータをイメージャチップの背後にあるシグナルチェーンに直接挿入する必要があります。つまり、計算処理された画像データを適切な電気信号に変換しなければならないということです。このような場面に同社が使用しているのが環境センサインターフェースユニット(ESIユニット)です。ESIユニットは、極めて強力なシミュレーションプラットフォームの一部です。ここでは、ASMによるトラフィックシミュレーションがSCALEXIOシステム上で実行され、カメラセンサのモデルがdSPACEのSensor Simulation PC上で実行されます。また、ESIユニットはグラフィックカードを搭載しており、3D環境やカメラレンズの歪みなどのセンサ特性をグラウンドトゥルースデータに基づいてリアルタイムに計算します。その後、グラフィックカードの出力を制御ユニットの信号に変換し、露出制御といったいくつかのシミュレーション処理も行います。ESIユニットは幅広い信号インターフェースをサポートするよう設計されており、各種のセンサへの対応が可能です。

Setup of the validation system for camera control units: The HIL system and the data replay system use the same components.

データリプレイテスト

同社では、SILテストやHILテストだけでなく、実際のデータを使用したテストも行っています。実際のデータは、テストドライブ中に発生したエラーをラボでシミュレートする場合などに使用します。このテストセットアップには、HILシミュレーションの場合と同様にSCALEXIO、Sensor Simulation PC、およびESIユニットを使用します。データリプレイテストでは、RTMapsを使用してSensor Simulation PCからデータを再生します。このPCはESIユニット(カメラの生データ)とSCALEXIOシステム(CANなどのバス通信)の両方にデータを転送します。データはそこでバッファに格納され、時間同期的に制御ユニットの電気信号に変換されます。そのため、テストセットアップを一切変更することなく、オープンループやクローズドループのテストに対応できるのです。

RTMaps diagram for the data replay.

開発プロジェクトから得た経験

Neusoft Reach社では、dSPACEのシミュレーションおよび妥当性確認ソリューションを用いて複数のADAS/AD ECUの妥当性を確認することにより、製品の実用化に成功しました。それらの製品は、乗用車やトラックなどの商用車に使用されています。実用化された製品の中には、5台のカメラを使用して360°のパノラマビューを実現するというシステムがあります。同社は、この製品の妥当性確認においては、5台すべてにESIユニットを介してデータを入力しました。この際はSILやHILのおかげでテストが容易に再利用できました。さらに、機能開発の早期の段階で作成したテストをECUの認定に使用したり、機能開発者が総合的なHILテストをSILに活用したりすることも叶ったのです。また、シミュレーションプラットフォームであるVEOSとSCALEXIOの間では、開発したテストを一貫して再利用できました。同社のプロジェクトでは、欠陥挿入が重要な機能として利用され、ピクセルまたはラインに基づく色の誤差やノイズが発生した場合などには、この機能を用いてシステムの信頼性を確認しました。これらのエラーは自動でも手作業でも挿入することが可能です。ESIユニットは、センサインターフェースやMaxim GMSL1およびGMSL2、TI FPD-Link III、MIPI CSI-2などのプロトコルに柔軟に対応します。そのため、同社は多様なOEMメーカーの要件をひとつのシステムだけでカバーしたり、サプライヤの特殊な要件に合わせてさまざまな調整を行ったりすることができました。また、AUTOSARベースのECUにソフトウェアを実装する場合には、量産コード生成ツールであるTargetLinkを使用しました。ツールの強力なAUTOSAR機能を用いたことで、同社はAUTOSAR準拠のソフトウェアを快適に作成するに至りました。

The robustness of the ADAS/AD algorithms is improved by the targeted injection of errors via test software.

dSPACEソリューションの役割と評価

dSPACEのソリューションは、強力かつ極めて現実的なシミュレーションソフトウェア、HILシミュレータ、高性能なSensor Simulation PC、およびESIユニットで構成されおり、Neusoft Reach社の新しいECUの認定において重要な役割を果たしています。同社は、SILおよびHIL手法とデータリプレイテストを早期の段階から一貫して使用することにより、ソフトウェアの開発サイクルを短縮し、ソフトウェア品質を向上させることに成功しました。そしてこのことが、コストのさらなる削減や製品のタイムリーな市場投入をもたらしています。同社は全体的な業務効率性を、dSPACEソリューションを使用しなかった以前のプロジェクトと比較して70%も向上させました。そのため、投資コストも既に平均を上回るペースで回収できています。

今後の展望

Neusoft Reach社では、今以上に多様な支援機能の開発に取り組んでおり、自動運転向けシステムの対応範囲も拡張していく予定です。同社では、新たな要件に合わせた妥当性確認ソリューションを導入するため、dSPACEと緊密に協力して業務を進めています。データ記録の分野においては、データロギングシステムであるAUTERAをいかに活用してワークフローの効率性を高めていくかについて評価しているところです。同社では、照明や気象の実際的な影響を加味した極めて高精度な環境センサシミュレーションを実現するdSPACEの最新のSensor-realistic Simulationソフトウェアの導入も予定しています。

Yan Wei氏、Neusoft Reach社

At a Glance

At a Glance

Validation of camera-based driver assistance systems

Challenge

  • Testing camera-based control units without stimulation of the imager chip
  • Feeding sensor-realistic raw data into the control unit

Solution

  • Using an integrated SIL/HIL simulation platform
  • Sensor-realistic simulation of camera data with physically correct models

Benefit

  • Easily reproducible tests for software and control unit
  • 70% increase in test efficiency

Neusoft社について

Neusoft社は、自動車、家電製品、携帯端末、IoT、医療、業務プロセスのアウトソーシング、金融、証券および保険、情報テクノロジのアウトソーシングなどの業界に対し、ソフトウェアベースの設計サービス、製品、および事前統合ソリューションを提供しています。Neusoft社では、20,000人を超える従業員がアジア、欧州、北米、および中東といった世界各地で従事しています。同社はソフトウェアテクノロジに重点を置いており、自動車業界向けの自社製品やソリューションを通じて、ナビゲーション、ADAS、HMI、コネクテッドカー、およびインフォテイメント向けのソリューションを提供しています。また、北米、欧州、アジアを含む世界中の多数の自動車OEMメーカーやTier 1サプライヤのお客様に各種の製品やサービスを提供しています。Neusoft Reach Automotive Technology Co., Ltd.(略称「Neusoft Reach」社)は、モバイルインターネット、人工知能、および自動車業界に新しいエネルギーテクノロジを提供する革新的な企業です。

著者について:

Yan Wei

Yan Wei

Yan Wei is responsible for ADAS at Neusoft Reach Automotive Technology (Shenyang) Co., Ltd. in Shenyang, China.

Long Ning Zhao

Long Ning Zhao

Neusoft Reach Automotive Technology (Shenyang) Co., Ltd. in Shenyang, China.

Di Wu

Di Wu

Neusoft Reach Automotive Technology (Shenyang) Co., Ltd. in Shenyang, China.

Xiao Yu Chen

Xiao Yu Chen

Neusoft Reach Automotive Technology (Shenyang) Co., Ltd. in Shenyang, China.

Ding Nan

Ding Nan

Neusoft Reach Automotive Technology (Shenyang) Co., Ltd. in Shenyang, China.

dSPACE MAGAZINE、2021年5月発行

製品情報

  • SCALEXIO
    SCALEXIO

    RCPおよびHILアプリケーション用のモジュール型のリアルタイムシステム

  • センサシミュレーションPC
    センサシミュレーションPC

    現実的なセンサシミュレーション向けの高性能シミュレーションプラットフォーム

  • 環境センサインターフェースユニット
    環境センサインターフェースユニット

    環境センサインターフェースユニットは、カメラ、レーダーおよびLiDAR ECU、および自動運転用の中央演算処理装置(CPU)のHILテストのために生のデータおよびターゲットリストの挿入をサポートしています。

  • Automotive Simulation Models
    Automotive Simulation Models

    エンジン、ビークルダイナミクス、電装システム、および交通環境のシミュレーション向けツールスイート

  • RTMaps
    RTMaps

    マルチセンサアプリケーションでセンサフュージョンアルゴリズムや認知アルゴリズムの開発、テスト、ベンチマーク評価、および妥当性確認を行うためのソフトウェア環境

  • AURELION
    AURELION

    dSPACEが提供するセンサリアリスティックシミュレーション向けのソフトウェアソリューションであるAURELIONを使用すると、認知機能や運転機能のテストおよび妥当性確認向けに現実的なセンサデータを統合することができます。

最新の技術開発動向をつかんで、イノベーションを加速。

メールマガジンの購読希望・変更/配信停止手続き

Enable form call

At this point, an input form from Click Dimensions is integrated. This enables us to process your newsletter subscription. The form is currently hidden due to your privacy settings for our website.

External input form

By activating the input form, you consent to personal data being transmitted to Click Dimensions within the EU, in the USA, Canada or Australia. More on this in our privacy policy.