イリノイ大学シカゴ校(UIC)の研究チームは、再生可能エネルギー資源やエネルギー貯蔵システムを利用することでエネルギーに新たな枠組みを加速的に導入するためのプロジェクトに着手しました。

従来の発電プラントは、負荷需要に合わせて有効電力を調整することができます。しかし、これらは現在、再生可能エネルギー資源に完全に依存した再生可能エネルギー生成プラントへと急速に置き換えられています。これにより、パワーグリッド運用時の安全性と信頼性をどう確保するのかという大きな課題が発生しています。

イリノイ大学シカゴ校(UIC)では、分散型でありながら相互接続型の制御が可能なパワーエレクトロニクスベースの発電を実現することで、エネルギーの新たな枠組みに伴うこれらの課題に対応できると考え、研究を進めています。この新しい発電コンセプトは、発電プラントを集中させる形の従来のパワーグリッドとは根本的に異なります。

UICの電気およびコンピュータ工学部の助教授であり、Intelligent Power Electronics at Grid Edge(IPEG)研究ラボの所長でもあるMohammad Shadmand博士は、PEDG(Power-Electronics-Dominated Grid)の潜在的な利点は従来の電源システムをはるかに上回ると述べています。

Shadmand博士は、「従来の電源システムは、環境問題(地球温暖化の一因)、エネルギー損失、安定性の問題、効率性の低さ、可観測性プランの限界など、複数の課題に直面しています」とし、「さらに、これらは公益事業として一元的に管理されています。しかし、他のエネルギー源に基づいたPEDGへ移行することにより、これらの懸案の大半は解決します。ただし、新たな課題も発生します。私たちは、これらの課題のさまざまな側面に取り組むことで、有効かつ全体的なソリューションを提供することを目指しています」と述べています。

Power-Electronics-Dominated Grid(PEDG)

PEDGは、通信インフラやIoT(Internet of Things)に組み込まれる形で情報と電力が双方向に流れるシステムを構築します。これにより、攻撃に対する復元力、自己修復機能、電力品質の向上、負荷ポイントにおける発電と貯蔵システムの調整、システムのリアルタイム最適化といった新しい機能が実現します。PEDGは、電力市場の進化に必要なすべての要素を備えています。

障害の克服

PEDGという新しいコンセプトは、再生可能な資源の使用をグリッド全体で促進することができるものです。しかし一方で、プライバシー、安定性、制御、サイバーフィジカルセキュリティ、およびプランニングに関していくつかの課題があり、エネルギーの新たな枠組みを十全かつ迅速に導入するためには、これらの課題に対処しなければなりません。

UICの博士論文提出資格者であり、IPEGラボ研究アシスタントでもあるMohsen Hosseinzadehtaher氏は、「これらの課題に対処すれば、社会福祉、大気の浄化、医療費の削減、高出力時の品質向上など、複数の面で国家全体のメリットとなり得る安全かつ復元力に優れたエネルギーシステムを実現できます」と述べています。

UIC研究チームのソリューション:

  1. PEDGのサイバーフィジカルセキュリティ、復元力、制御性、および可観測性を向上するための自己学習制御手法などの自動制御方式を設計する
  2. グリッドクラスタリング技術により、グリッドの制御性を向上させると同時に余分な通信リンクを排除する
  3. 設計された制御方式を評価し、信頼性に優れた可搬エネルギー生成システムを設計するために、実際のマイクログリッドテストベッドを開発する

大きく考え、小さく始める

UICでは、多数の研究活動を同時並行的に行っています。Shadmand博士によれば、これらの活動では、デバイスレベル(グリッドインタラクティブインバータ)の研究とシステムレベル(グリッドクラスタにおける高機能インバータの相互作用と状況認識、およびサイバーセキュリティ分析)の研究に重点が置かれています。

Shadmand博士は、「研究段階のほとんどが完了し、現在は実際の小規模マイクログリッドを開発中です」とし、「このマイクログリッドを活用して、私たちが設計し考案した技術の機能性を検証し、その上で最終的な目標である復元力の高い安全なPEDGの運用を目指します」と述べています。

チームは現在、システムの安定性を脅かす恐れのある潜在的な外乱の特定を行っています。これらの問題の根本原因を分析することにより、システムパラメータを適切に制御し、グリッドの復元力と安定性を高めるインテリジェントな技術を開発できると考えています。

テストベッドの一部としてMicroLabBoxを使用

チームは、設計したテストベッドにプロトタイピングユニットであるMicroLabBoxを組み込み、個々の電源スイッチを制御しています。テストベッドコントローラは、MATLAB®/Simulink®を使用して開発されました。電源コンポーネントの電圧/電流計測値は、MicroLabBoxへの入力として使用されています。MicroLabBoxはSimulinkで開発された制御方式を動作させ、コンバータを駆動するためのロジックレベルの信号を提供するプロセッサとして機能します。チームでは、PEDGの一貫性を実現するための高機能なグリッドフォーミングおよびグリッドフォローイングインバータの開発にもMicroLabBoxを使用しました。

The event-triggered self-learning inverter, tested by the IPEG research team (from left): Dr. Mohammad Shadmand, Amin Y. Fard and Mohsen Hosseinzadehtaher.

 

予測型制御手法を実装

チームはまず、グリッドインタラクティブインバータの人工知能手法からヒントを得て、復元力の高いモデルベースの予測型制御方式のテストをMATLAB/Simulinkインターフェースを用いて行い、その後、dSPACE ControlDesk環境でシミュレーションを行って検証実験を行いました。

Shadmand博士は、MicroLabBoxの最大の魅力は、Simulinkでコントローラを開発してからテストをするまでの期間が短いことであると言います。

同氏は、「MicroLabBoxにより、開発サイクルの早期の段階でマイクロコントローラのプログラミングに時間を割く必要がなくなります」とし、「たとえば、モデル予測型制御では高速な動的応答が可能ですが、ターンアラウンドタイムを最小限に抑えた高速処理が必要となります。また、私たちが開発しているアダプティブ制御では、弱電や超弱電の条件下でのLCLフィルタの共振問題に対応できるだけの即応性が必要です」と述べています。

Hosseinzadehtaher氏はさらに、「MicroLabBoxは全体的に処理速度が極めて高かったため、私たちは追加作業をほとんどせずにスマートインバータ制御の検証実験を問題なく行うことができました」と述べています。

Baker氏は、「それだけでなく、ControlDeskの使いやすいユーザインターフェースのおかげで、テスト結果をすべて取得し、動的にパラメータを変更してコントローラの動的な応答を受け取ることができました」と述べています。

分散型エネルギー資源の協調運用

チームは、PEDGの詳細な研究において、MicrolabBoxをHILプラットフォームとしてPEDGの二次および三次コントローラを実装し、それを用いて分散型エネルギー資源(DER)の協調運用を研究しています。電圧調整、周波数調整、合成イナーシャのエミュレーション、過渡安定度の向上などを実現するDERは、グリッドフォローイングDERやグリッドフォーミングDERと組み合わせて使用されます。

イリノイ大学シカゴ校 のご厚意により寄稿

dSPACE MAGAZINE、2022年4月発行

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