スタートアップ企業であるINCEPTIO Technology社は、高機能かつ効率的な自動運転トラックを開発し、中国の広域高速道路の隅々まで、そして将来的にはさらに他の地域にまで商用貨物を輸送するという野心的な構想の実現に取り組んでいます。
この壮大なビジョンには1つ、鍵となる重要な技術があります。それは公共の高速道路環境においてトラックフリートの自動運転を可能にするフルスタックの自動運転システム(ADS)の開発です。INCEPTIO社はそのような商業運行を実現するADSを、車載ソフトウェアやクラウドサービスの各種微調整とともに開発しています。
同社のPRディレクターであるLydia Zhu氏は、「当社の使命は、業界をリードするトラック用自動運転テクノロジを開発し、より安全かつ効率的な長距離物流網を構築することです」とし、「当社のテクノロジやシステムは、量産される自動運転トラックに事前に搭載されることになります」と述べています。
自動運転用の演算プラットフォーム
ADSは、搭載した認知センサ(カメラ、LiDAR、およびレーダー)から大量のデータを受信し、認知、予測、場所の特定、計画、走路選択、制御などのさまざまな演算タスクを実行します。
同社の自動運転プラットフォーム部門のシステムアーキテクトであるDexin Li氏は、「ADSは、走行中に車両に起こる『いま自分はどこにいるか』『周りには何があるか』『これからどこへ行くのか』といった疑問に答えるものです」とし、「そしてこれに対して車両の制御コマンドが生成され、CANインターフェース経由で適切なタイミングで車両へ送信されることになります」と述べています。
ADSで動作するソフトウェアは、人工知能(AI)アルゴリズム向けのアプリケーションソフトウェア、ソフトウェア機能の提供と車載通信に使用するランタイムミドルウェア、およびハードウェアサポート用のファームウェアで構成されています。また、専用のハードウェアおよびソフトウェアコンポーネントを通じて、システムの機能安全とサイバーセキュリティを監視および管理します。
複雑な仮想環境を構築
実際の路上テストでハードウェアやソフトウェアの妥当性を確認するのはコストがかかるうえに、それらの問題の発見はたびたび遅きに失しています。そのため、INCEPTIO社では、アルゴリズムの開発と人工知能(AI)モデルのトレーニングを行うのに現実世界のデータと合成データを組み合わせて使用するという戦略的決断を下しました。
このようなセンサリアリスティックシミュレーション手法を活用することにより、開発者は有益なデータをはるかに低コストで生成し、開発の早期の段階でシステムの妥当性を確認できるようになります。Zhu氏によれば、このデータは同社が運行シナリオや顧客ニーズをよりよく理解するのに役立つだけでなく、同社が独自のテクノロジを現実環境において検証する際にも有効です。これには将来的な反復作業も含みます。
テスト車両には、3つのLiDAR、7つのカメラ、5つのレーダーを搭載したものもあります。同社では、製品の開発やアルゴリズムの検証の際に収集されたセンサデータを最大限に活用できるよう、仮想と現実世界を融合させた手法を用いてシステム動作の確認、選別、および分析を実施しています。
Li氏は、「これはさらに、徹底的かつ反復的に問題を調査することができるため、現実の問題を低コストで解決することにつながります」とし、「そうした複雑な仮想環境を構築するのは容易ではなく、その開発には外部のリソースや専門知識が必要であると認識したため、当社はdSPACEに協力を求めました」と説明します。
INCEPTIO社では、ADSの開発、テスト、および妥当性確認にdSPACE SCALEXIO HIL(Hardware-in-the-Loop)システム、Automotive Simulation Models(ASM)、Sensor Simulation、dSPACE環境センサインターフェース(ESI)ユニット、およびその他の複数のdSPACEツールを組み合わせて使用しています。
Li氏は、「SCALEXIO HILはシステムの妥当性確認向けの環境を構築するのに理想的なプラットフォームです」とし、「各種センサ用のデータリプレイサーバや当社が開発するADSを環境センサインターフェース(ESI)ユニットに接続することにより、極めて実践的なアプローチ法をつかむことができました。ESIユニットを使用すると、現実世界のセンサデータをHILシミュレーション上で再生することができるため、ADSの妥当性確認に役立ちます」と述べています。
プロジェクトの現状と今後の計画
INCEPTIO社のプロジェクトは現在、実装段階にあります。現在までにINCEPTIO社はセンサシミュレーションとデータリプレイの計画を構築し、同社のエンジニアたちが集中的にdSPACE HILシステムを使用してハードウェア、車両の通信および制御、さらには自動運転モード制御やover-the-air(OTA)の妥当性確認を遂行してきました。
Li氏は「システムの動作は良好です」とし、「当社は、dSPACEツールを用いてさまざまな車両の制御や通信に関するテストケースを実行してきました。dSPACE HILシステムのパフォーマンスには非常に満足しています」と述べています。
近い将来INCEPTIO社は、より現実に即した環境で喫緊の交通状況をシミュレートする段階に進むため、dSPACEのシミュレーションモデルとESIユニットの使用を強化する予定です。この構成は、ADSハードウェアの妥当性を「全機能検査」や(センサ接続切断などの)関連する欠陥挿入テストによって確認する場合にも適しています。
同社は運転シナリオを継続的に拡大させるとともに、道路の損傷、道路沿いの各種建造物、気象変化などを採り入れたさまざまな環境シミュレーションにおける、現実味のあるトラックの走行条件を作成しているところです。これらのテストには、タイヤのパンクといった従来の故障も含まれています。
同社はまた、dSPACEのGlobal Navigation Satellite System(GNSS)Simulator Interfaceブロックセットを利用してHILに接続し、GNSSのテストシナリオや信号をシミュレートおよび制御することも予定しています。
最終的に同社は、Intempora社のマルチセンサソフトウェアであるRTMapsを使用して、トラックテストからセンサデータストリームや環境のCAN信号を収集し、これらのデータを同一のHILシステム上で再生して実際の路上テストと同じ状況を再現することを企図しています。
まとめと考察
このように、dSPACEシミュレーションソフトウェアと各種のハードウェアインターフェースを組み合わせて強力なソリューションを実現すれば、シミュレーションおよびリプレイ機能を車両レベルとセンサレベルの双方で提供できるため、より効率的にシステムの妥当性を確認できます。INCEPTIO社では、これらの機能をさらに活用することで、自動運転トラック輸送システムのコスト削減と品質向上を目指しています。
INCEPTIO Technology社のご厚意により寄稿
dSPACE MAGAZINE、2022年9月発行